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2012.06.26

「肉屏風の密室」(その一) 帰ってきた巡按御史

 宋代の中国を舞台に、巡按御史(皇帝の代理人として地方官の非違を探る監察官)の趙希舜と仲間たちが、各地で起きる不可思議な事件とその背後の不正を暴く中国時代ミステリシリーズの第2弾であります。
 前作「十八面の骰子」同様、本書も五編の短編で構成された連作集となっています。

 本シリーズの主人公・趙希舜は、見た目は少年だが実は25歳で医術の達人、そして皇族の血に連なる青年。
 そんな彼が、美男美声で拳法の達人のお目付役・傅伯淵、豪放磊落な髭面の豪傑・賈由育、元芸人の身軽な少女・茅燕児の力を借りて、諸国の怪事件の謎を解いていくというのが本作の基本スタイルであります。

 起きる事件はどれもミステリ的な興趣満点、さらに、舞台となる時代や土地に密着した内容で、時代ミステリとして、非常に楽しい本シリーズ。
 ここでは、収録作品を一つずつ紹介していきましょう。


「黄鶏帖の名跡」

 難癖をつけて無実の士人を牢に繋ぐ県知事に捕らわれた希舜と伯淵。事件の背後には、知事と土地の富豪、隠居官人との確執があった。

 冒頭に収められたのは、奇妙な行動を取る県知事の真意を探る希舜一行が、思わぬお宝を巡る事件に巻き込まれる作品です。

 物語の発端となるのは、難癖をつけて無実の人間を捕らえ、牢に押し込めるという知事の行動に希舜が疑問を抱いたこと。
 知事の行動自体は確かにけしからぬものですが、巡按御史が断罪するほどのものではない。しかし、知事がそんな行動を取る背後には、必ず理由があるはず――
 それを探るために自らも知事に捕らわれた希舜は、やがて知事とは犬猿の仲の土地の富豪と、そして彼らも垂涎のお宝を持つという隠居官人の存在を知るのですが…

 ある人物の奇矯な言動が意外な事件に繋がっていくというのは、短編ミステリにままあるパターンですが、ここでその意外な事件の中心に位置することになるのが、タイトルである黄鶏帖であります。
 三国時代に作られたというこの黄鶏帖に記されたものとは…ラストで明かされるその正体は、中国史にもあまり馴染みのない人間でも納得の内容で、一種伝奇もの的味わいになっているのも面白い。
 ミステリとしてはちょっとあっさり目の部分もあるのですが、この正体だけでも十分に印象に残る作品です。


「蓬草塩の塑像」

 絞殺された上、豪邸の二階の露台から池に投げ落とされた未亡人。この謎解きに挑む希舜だが、現場には犯人の姿はなく…

 祖父の旧友を訪ねた希舜が、そこで知った奇怪な殺人事件の謎に挑む二編目は、個人的に大好きな作品の一つであります。

 事件の被害者は、金で集めた娘たちを育て上げ、妾として金持ちに周旋していたという女。彼女が自邸に県知事をはじめとする客人を招いていた際、彼女が絞殺体となって庭の池から発見されます。
 事件発生当時は二階の露台に居たはずの彼女。しかし彼女が池に投げ落とされた時には、周囲には誰の姿もなく、そして邸にいた人間全てにアリバイが…

 というわけで、本作は衆人環視の環境下で行われた不可能殺人の謎を解くという趣向。これだけでも痺れるのですが、一連の事件の背後に、塩の専売という当時の重要産業が絡み、様々な形で重要な意味を持ってくるというのが面白い。

 さらに、殺人事件が意外な形で大活劇に繋がっていくという展開も楽しいのですが、何よりも見事なのは、ラストで希舜が見せる名裁きであります。
 難事件を解決するだけでなく、卑劣な企みに巻き込まれた薄幸の男女を救ってみせるその痛快さだけでなく、そこに込められた希舜の想いにグッとくる、そんな見事な結末なのであります。


 以下、次回に続きます。

「肉屏風の密室」(森福都 光文社) Amazon
肉屏風の密室


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