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2012.07.21

「戦国妖狐」第9巻 虚構と史実、同日同刻二つの戦い

 「戦国妖狐」も第二部、千夜編に突入してから早3巻目。千夜の物語もここで最大の山場に突入いたしました!

 己に執拗につきまとう黒龍の少年・ムドに月湖をさらわれ、彼との対決を余儀なくされる千夜。強大な力を持つムドに挑むため、千夜は、己の中に眠る闇(かたわら)と正面から向き合うことを決意します。
 そしてその中で、彼の封じられていた過去が――

 一方、足利義輝は、真介、斬蔵、華寅に、意外なことを打ち明けます。剣の修行の中で、己の未来を視るようになった義輝は、その果てに遂に「時を完結」させ、自らの死を知ったのだと…
 未来を受け入れた義輝は、その日に死ぬことを決め、自分の周囲の人間たちを逃がすことを真介らに依頼します。

 千夜とムドの対決の日、そして義輝が死ぬ日――それこそは永禄8年5月19日。
 その運命の日に向かって、登場人物たちの物語は加速していくことになるのですが、 この千夜編に登場したキャラクターたちのドラマが、この一日のために集約していく様はただただ圧巻であります。

 その中で、主人公たる千夜のドラマは、人と闇という存在を描いてきた本作の(第一部を含めた)一種の総決算として強く印象に残ります。
 遂に封印された己の記憶を取り戻した千夜が、何を想い、何を選択するのか? 人の生とは何か、闇の力とは何か――その両者を結びつけ、折り合いをつけることはできないのか?
 千夜がたどりつくその答えは、いかにも少年漫画的なものでありつつも、しかし同時に本作ならではのものであり、これまでの物語を見守ってきた者にとって、大いにうなづける、そして笑顔になれるものであることは間違いありません。

 しかし――そんな千夜のドラマすら圧倒してしまう巨大な存在感を見せるのは、やはり剣豪将軍義輝その人であります。
 義輝が、松永久秀に攻められ、その異名の所以たる剣の技を存分に発揮した末に討ち取られたというのは、歴史ファン、戦国ファンであればよくご存じでしょう。

 数では勝る松永軍も正面からでは全くかなわず、畳で四方から押し包んだ、あるいは槍で足元を狙って討ち取ったなどという説もありますが、しかしそれを本作では、真っ向からひっくり返してみせる義輝の大暴れ。
 そのぬけぬけとした暴れっぷりはもう痛快の一言で、前の巻に初めて登場したキャラクターとは到底思えない存在感に、ただただ脱帽です。

 誰が義輝を倒すのか、と言いたくなるような状況の中に登場するのが…という、物語の本筋への引き戻し方もインパクト十分ですが、義輝のもう一つの辞世の句が語られる最期の場面もまた見事。
 かなり個性的なビジュアルと言動ではありましたが、しかし、不思議に「ああ、足利義輝だ」と感じられるキャラクターであったと感じます。


 さて、虚構の戦いと史実の戦い、同日同刻に行われた二つの戦いは終結し、おそらく虚構と史実は再び分かれて別の物語が始まるのでしょう。
 戦いの中にポジティブな意味を見出した千夜がどのような旅を続けることになるのか。そして迅火との、五人の怪人との出会いは…、この戦国の中で描かれる今後の物語が待ちきれません。


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