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2012.07.27

「砕かれざるもの」 ネクストステージの荒山伝奇

 前田家加賀百万石の取り潰しを狙う将軍家光とその尖兵・柳生新陰流。宇喜多秀家の孫で剣の達人・秀親は、前田家救援に向かわんとするが、先手を打った柳生十兵衛に斬られ、その弟・秀景は、兄の仇を討つため八丈島を旅立つ。一方、加賀では第三勢力の出現により、事態が意外な方向に向かっていた…

 荒山徹が地方紙に連載してきた「砕かれざるもの」が単行本化されました。「荒山流”純粋剣豪小説”、ここに誕生!」を謳う、ファンとしては何とも気になる作品であります。

 時は江戸時代初期、三代将軍に就任した直後の家光は、己の権威を示すために加賀百万石の取り潰しを目論みます。しかし加賀前田家には「乾雲坤龍」と称される秘文書が存在。その文書に記された内容は、徳川幕府を崩壊させかねぬものだというのですが…
 ところがその秘文書も加賀に侵入した柳生新陰流一門に奪われ、風前の灯火となった前田家。天下に孤立無援となったかに見える前田家に味方する者は…何と八丈島に!?

 前田利家の娘である豪姫を正室としながらも、関ヶ原の戦に敗れ、今なお八丈島で生き続ける宇喜多秀家。その孫・秀親は、秀家の弟(!)である山田浮月斎の薫陶を受け、希代の名剣士に成長していたのであります。
 しかし秀親が前田家に助太刀することを恐れた柳生十兵衛は彼を闇討ち同然に殺害。一門が絶望に暮れる中、立ち上がったのは、秀親に剣を学んでいた彼の弟・秀景…彼は、兄の仇を討ち、祖母の暮らす前田家を護るため、圧倒的に強大な敵に挑むことを誓います。

 一方、秘文書を奪った柳生一門を襲い、秘文書を横取りした第三勢力が出現。その存在が、秀景の戦いにも大きな影響を与えていくことになるのですが――

 いやはや、「純粋」とは妖術や怪獣抜きのことであったか…と言うと意地悪に聞こえるかもしれませんが、これは私にとってむしろ褒め言葉。何しろ本作には、いかにも作者らしい伝奇性が横溢しているのであります。
 幕府の運命を左右する秘文書に記された家康の秘密。そしてその秘密を脇から奪い取った第三勢力の驚くべき正体と目的と、とんでもないアイディアが並びますが、むしろ主人公回りの設定が実に面白いのです。

 前田家と宇喜多家の繋がり自体は、これは史実の示す通りですが、そこに山田浮月斎が秀家の弟というフィクション(ここ作者お得意の駄洒落めいたネーミング解釈が開陳されるのがまた楽しい)を絡めることにより、前田家・宇喜多家vs徳川幕府の戦いに、見事に疋田陰流vs柳生新陰流がオーバーラップしてくるのに、大いに感心いたしました。

 そして、もちろん、本作は剣豪小説、時代活劇として優れた作品であることも間違いありません。荒山徹は、作品の題材の過激さや盛り込まれたアイディアの派手さ――いわゆるネタっぽさ――に目を眩まされがちではありますが、元々、文章力・描写力において、かなりのものを持つ作家であります。
 本作においては、そんな作者の時代小説家としての地力が遺憾なく発揮されていると言えます。数多くの登場人物が入り乱れる物語の流れを巧みに捌くとともに、随所にそれぞれ全く異なるシチュエーションで剣戟を、アクションを設定し描いてみせるという…
 特にラストの、秀景とあの剣豪の、ケレン味が溢れつつも、同時にロジカルな説得力を持つ決闘描写などは、剣豪作家としての作者の腕を見事に示していると言えましょう。


 もっとも、そんな本作においても瑕疵は皆無ではありません。
 特に気になるのは、秀景の戦いを、特に後半部分では復讐のためのそれとして描いたことにより、彼のキャラクターがいささか平板なものとなっている点。復讐鬼としての顔が前面に出たために、巨大な敵、無情な運命にも負けぬ「砕かれざるもの」としての彼の顔がぼやけてしまったのは、生まれついての将軍と生まれついての流人という対比も面白かっただけに、何とももったいなく感じます。

 また本作には、敵役としてある勢力が登場するのですが、その扱いが、陰謀論的それを出たものでないのに疑問が残ります。もちろん彼らにそうした側面があったことは否定できませんが、それだけを描くのは一面的に過ぎるものであり、また危険でありましょう。
 この辺り、特に上で述べた主人公の行動原理に絡む部分もあり、気になった次第です。


 と、このように今一歩な点は確かにあるものの、しかしそれでもなお(いやその点を含めても)本作は現在の作者の到達点の一つであり、作者が「純粋」な作品でも勝負できることを示すものであります。

 柳生を敵に回し、朝鮮を離れ…それでもなお、荒山作品として面白い。
 本作はそんな、ネクストステージの荒山作品と言えるのではないでしょうか。

「砕かれざるもの」(荒山徹 講談社) Amazon
砕かれざるもの

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コメント

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https://twitter.com/asahi_kantei/status/452584603417452544

"総理番・笹川翔平)ちなみに安倍首相が買った本は次の6冊です。嶋中雄二『これから日本は4つの景気循環がすべて重なる。』/永濱利廣『エコノミストが教える経済指標の本当の使い方』/原田泰『若者を見殺しにする日本経済』/浅田次郎『黒書院の六兵衛』上下/荒山徹『長州シックス』"

アベ総理も荒山時空に取り込まれているのでしょうか
韓流とかモスラとか


投稿: ADUN | 2014.04.09 08:29

ADUN様:
いやあ本当にこのニュースには腰を抜かしましたね。しかしその後あまり話題になっていないのもまたなんとも…

投稿: 三田主水 | 2014.04.12 22:43

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