「無宿島」 社会から封殺された者たちの復讐劇
石川島に作られた人足寄場、通称「無宿島」。無宿人を収容するこの無宿島に、倫太郎と伊之助の二人の無頼漢が、身分を偽って潜入した。ある目的を秘めて動く二人だが、島では無宿人の怪死事件が続発し、一触即発の空気が流れる。果たして倫太郎たちの目的は、そして無宿島に秘められた秘密とは…
翔田寛は時代小説では主に文庫書き下ろしで活躍している作家ですが、本作は書き下ろしではありますが単行本、そして内容の方も、文庫書き下ろしのそれとは一味も二味も違う、サスペンスフルな一種のピカレスクものとなっています。
タイトルであり、本作の主な舞台である「無宿島」とは、石川島の人足寄場の別名。寛政の頃、飢饉などで江戸で爆発的に増えた無宿人を収容し、それだけでなく彼らに様々な職業訓練を施した、今で言えば自立支援施設的な側面も持った、当時としては画期的な施設であります。
そうはいっても、無宿人を強制的に集め、一定期間閉じ込めるという点では、やはり監獄同様の性格を持つ場所。江戸の人間、特に無宿者にとっては恐怖の的であったことは想像に難くありません。
しかしこの無宿島に、わざわざ役人を抱き込み、全くの別人を装ってまで潜入する男が二人――旗本の妾腹の子・倫太郎と、元井戸掘り職人の伊之助、江戸で無頼の暮らしを送る二人は、島に眠るあるモノを狙い、密かに行動を開始します。
物語は、そんな彼らの計画を中心に描かれる…だけではないのが、本作の実に面白いところであります。
彼らの潜入に前後して、島では無宿人の不審死が頻発。ある者は一見事故に見える死を遂げ、またある者は無残な拷問の末に殺害され――奉行が不可解にもひた隠しにしようとする彼らの死に疑問を持った町奉行所の熱血同心の捜査が、倫太郎の計画と並行して描かれるのであります。
倫太郎は島の何を狙い、そして彼は何故その存在を知っているのか。無宿人たちの死は彼の計画に関係するものなのか。島の役人や無宿人たちの間の不穏な動きの意味は。そして倫太郎の計画は果たして成功するのか――
本作は、幾つもの要素が複雑に絡みあい、クライマックスに向けて一気に疾走していきます。
本作は単行本で400頁近いかなりのボリュームのある作品ですが、作者お得意のミステリ色をふんだんに、さらにクライマックスでは状況が二転三転するサスペンスを仕掛けた物語内容に、一気に読まされてしまいました。
(本編とどのような繋がりを持つのか全く見えなかった冒頭の惨劇が、物語においてどのような意味を持つかが見えてきた時のインパクトはかなりのもの)
また、人足寄場という、意外に時代ものの舞台として描かれない場所を舞台とした着眼点も見事であります。
江戸の目の前にあるのにも関わらず無視されるこの無宿島。その存在は、確かに江戸で生きているにも関わらず人別帳を外れ、いないものとして扱われる無宿人たちのそれと重なって見えます。
本作で描かれるのは、そんな社会から封殺された者たちの逆襲劇・復讐劇なのではないか――そのように感じられた次第です。
冷静に考えると、倫太郎たちの計画は意外と単純であったり、登場人物が多数に及ぶためか、個々の書き込みは少なめであったりと、瑕疵がないわけではありませんが、しかしそれを補って余りある魅力を持つ、時代ミステリ、時代サスペンスであります。
「無宿島」(翔田寛 幻冬舎) Amazon

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