« 「娘同心七変化 謎の黄金観音」 娘同心が守るべきもの | トップページ | 作品集成更新 »

2012.08.03

「山田風太郎少年小説コレクション 2 神変不知火城」 山風幻の時代伝奇活劇!

 論創社は、特に海外小説好きにとって有り難い出版社でありますが(個人的には「グランダンの怪奇事件簿」を刊行してくれたのが本当に嬉しかった)、レトロ時代小説ファンにとっても、まことに有り難い出版社であったようです。
 というのも、今回論創社から刊行された「山田風太郎少年小説コレクション」には、単行本未収録の二編の中長編時代小説が収録されているのですから…
(ちなみに第1巻はミステリ中心。この第2巻にも「青春探偵団」の未収録作を初めとしたミステリも収録されておりますが、ここでは中長編時代小説のみを取り上げさせていただきます)

 まず一作目は「地雷火童子」。
 徳川方と大坂方の開戦が迫る中、家康に最も恐れられた男・真田幸村は、「地雷火を京都から江戸に運び家康の目の前で爆発させる」と宣言。真田大助と美少女・月絵、そして野生児の小源太少年は、幸村の命を受けて江戸に向かいます。
 それを阻まんと追いかけるのは、徳川方の隠密五人組と、謎のてんぐ山伏九人衆。小源太は徳川の隠密に祖父を殺され、そしててんぐ山伏は、実は小西行長の娘であり、父の残した財宝の在処を知る月絵を虎視眈々と狙い…
 かくて、地雷火の行方に加えて復讐劇と財宝探しまで絡んだ波瀾万丈のロードノベルが展開されることになります。

 実は、本作は同じ作者の時代小説「いだてん百里」のうち「地雷火百里」の子供向けリライトと言うべき作品です。
 ではあるのですが、元の筋立ては変わらぬまま、ディテールをシンプルにしたことがかえって良い効果をあげている印象。毎回手を変え品を変え繰り広げられる地雷火争奪戦(というよりむしろ探索戦とでも言うべきでしょうか)とその意外極まりない結末の面白さは、むしろ本作の方が際だって感じられるかもしれません。
(というより、結末の爽快感は明らかにこちらが上ではないでしょうか?)


 そしてもう一編は、「神変不知火城」であります。不知火燃える九州を舞台に、原城の秘密を記した秘図を巡って善魔入り乱れた争奪戦が描かれることとなるのですが、登場人物が凄まじい。
 小西行長の孫・天草四郎とその配下で幻術使いの森宗意軒と孫娘のお夢、暗愚の暴君・松倉重治を背後で操る妖術使いの由比正雪と相棒の丸橋忠弥、原城秘図を残した父を重治に殺された少年・塚本伊太郎(後の幡随院長兵衛)、謎の盗賊団・孔雀組と白頭巾の首領、そして実は生きていた真田幸村と 猿飛佐助主従――
 いやはや、いくら!マークを用意しても足らない、こうして列挙するだけでもテンションが上がる、素晴らしい顔ぶれではありませんか。

 秘図の争奪戦というのはこの手の時代活劇の定番(秘図が冒頭で二つに裂け、それぞれ別の勢力に渡るのもまた定番)ではありますば、島原の乱前夜という歴史的背景を置いて、歴史上の有名人を中心に、冒頭からラストまでノンストップの争奪戦が繰り広げられるというのは実に楽しい。
 この手の作品が好きで仕方ない私のような人間にはたまらない作品であります。

 もっとも、作者の経歴の中では最初期の長編時代小説(おそらく最初の作品?)ということもあってか、山風らしさは薄目ではありますし、何よりも物語半ばで「前篇・終」と未完になっているのは残念なところ。

 しかし、後年の作品でしばしば顔を出す由比正雪や森宗意軒がこの頃から活躍しているのは何とも興味深い――
 というより、山風ファンとしては何よりも、天草四郎・宗意軒・正雪の揃い踏みとくれば、どうしても「魔界転生」を思い浮かべてしまうわけで、本作が原点、などというのは明らかに言い過ぎですが、やはり楽しく感じられるではありませんか。


 以上二編、そして併録された少年ミステリも含めて、さすがに万人に勧めるものではありませんが、作者の大ファンであれば、やはり一度は目を通しておきたい作品集であります。

「山田風太郎少年小説コレクション 2 神変不知火城」(山田風太郎 論創社) Amazon
山田風太郎少年小説コレクション 2 神変不知火城

|

« 「娘同心七変化 謎の黄金観音」 娘同心が守るべきもの | トップページ | 作品集成更新 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/55307516

この記事へのトラックバック一覧です: 「山田風太郎少年小説コレクション 2 神変不知火城」 山風幻の時代伝奇活劇!:

« 「娘同心七変化 謎の黄金観音」 娘同心が守るべきもの | トップページ | 作品集成更新 »