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2012.08.06

「魔王信長」第3巻 歴史に埋もれた子供たちの反撃

 悪魔と取引して得た力により、破竹の勢いで勢力を伸張していく信長。だが、そんな彼の敵とも言うべき存在が現れようとしていた。奇妙丸・佐助・徳川信康・万福丸・胡蝶――フロイスの十字架に導かれるように集まった五人の少年少女は、比叡山を包む炎の中、ついに信長と対峙する。

 風野真知雄の幻の時代伝奇活劇「魔王信長」第3巻にして(今のところ)最終巻であります。

 自らの魂を悪魔に売り渡したことにより、不死身の肉体と様々な超常能力を得た信長。道三・義元・信玄と、様々な異能を持つ戦国大名たちと一対一の激突を繰り広げた末に戦国大名として頭角を現すようになった信長は、その勢いで次々と周囲を平らげていきます。
 その、まさしく魔王とも言うべき力の前に抗することの出来る者などいないのでは…と思われたところで、彼の敵となるべき者たちが、この巻でついに姿を現すこととなります。
 それはまだ幼い五人の少年少女――
 信長の長男で数奇な生まれを経た念動力の持ち主・奇妙丸。
 行方不明となっていた秀吉の子で、親譲りの身軽さを見せる佐助。
 家康の長男ながら築山殿に虐待され、鬱屈を酒と剣に求めた徳川信康。
 浅井長政とお市の間に生まれた自閉症気味の少年・万福丸。
 服部半蔵と伊賀一のくノ一の間に生まれながらも虚弱児の胡蝶。

 彼ら五人は、フロイスが奇妙丸に与えた不思議な十字架(フロイスがこの十字架を手にするに至った物語は軽くほのめかされるだけですが、それがまたとんでもないものの予感!)に導かれるように「仲間」として集まり、共通の敵である信長との対決を誓うこととなります。

 本作のラストにおいて、かの比叡山延暦寺焼き討ちの凶行に至った信長と、彼ら五人が最初の対峙を果たすのですが――しかし、ここで物語は途絶し、以来、現在に至るまで続編は書かれておりません。


 と、非常に残念な状況にある本作ですが、しかしその面白さは――YA向け作品であったり、作者の実質デビュー作であるという一種の制約を除いても――今なおはっきりと感じられます。

 既に何度か述べましたが、本作のユニークな点の第一は、信長をはじめとする超人的戦国武将が、そのそれぞれに異なるバックグラウンドで得た異能で以て、一対一の対決を繰り広げる点にあります。
 今現在においては、そうした一騎当千の超人武将たちの戦いは、ゲーム等ですっかりお馴染みとなっていますが、本作が執筆された当時においては、それは相当に斬新なものであったのではありますまいか。
 その意味では、早すぎた作品と言えるかもしれません。

 そしてもう一つ、魔王信長に対抗するのが、異能こそ持つものの一人一人ではまだ未熟な子供たちであり、そして何よりも、彼らが戦国史上の有名人たちを親に持ちつつも、自身はその陰に隠れるような形となっているのが、実に興味深い。
 いわば親世代が陽とすれば、彼ら子世代は陰。強大な敵に対するのが日陰者であり、歴史に半ば埋もれた者(完全に架空の人物と思われる者もおりますが)というのは、デビュー以来一貫して、敗者・弱者の側から物語を描いてきた作者らしい構図ではありませんか。


 今を先取りしたような斬新な設定と、今も変わらぬ作者ならではの視点――仮に本作の続編が今の作者の手で書かれることがあれば、と想像するのは、愚かなことではありますが、実に魅力的です。

 本作のあとがきで、作者は、馬琴が八犬伝を完結させるのに二十八年かかったことを挙げて、本作もまたいつか完結することがあるかもしれないと述べています。
 本作が発表されてから今まで十八年。もし本作の続きが読めるのであれば、あと十年くらい待つのはさして辛くはないのですが。

「魔王信長」第3巻(風野真知雄 小学館スーパークエスト文庫) Amazon


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