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2012.08.13

「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第6巻 偸盗の技、人間の怒り

 明を離れて舞台はタイへ…天正遣欧使節の第五の少年・播磨晴信と凄腕忍者・桃十郎の主従の活躍を描く「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」も第6巻。いよいよこの巻から、熱い大地での冒険が本格化することになります。

 マラッカに上陸して早々、市場で売られる奴隷の中に、こともあろうに日本の、自分の領地からさらわれてきた知り合いの娘・多栄の顔を見つけた晴信。
 彼女がホンサワディー王国に売られていくことを知った晴信は、ホンサワディーと敵対するアユタヤの戦士で凄まじい格闘の腕を見せる獅子のルンディンと出会い、ひとまずはアユタヤに向かいます。

 漫画的なアレンジが随所にほどこされている本作ですが、しかし背景となるのは各地の史実であり、登場するキャラクターの多くは実在の人物であります。
 今回のエピソードにおいても、タイのアユタヤ王国とビルマのホンサワディー王国の争いが背景として描かれていますが、ここで登場するのは(予想通り)アユタヤのナレスワン王子。

 後にタイの三大王の一人と称され、そして何よりもムエタイの生みの親という伝説を持つナレスワンですが、本作におけるナレスワンは、熱さと明るさ(脳天気さ)を合わせ持つ非常にユニークな人物として描かれます。
 アユタヤを戦のない「ほほ笑みの国」に変えるという理想を持ち、そしてルンディンという凄腕の「親友」を持つナレスワンは、戦をなくす方法を求めてローマに向かい、桃十郎と「主従」である晴信と、ある意味通じ、ある意味異なる人物に感じられますが…

 と、ナレスワンとの出会いもそこそこに、この巻のメインとして描かれるのは、晴信・桃十郎・マンショによるホンサワディー王宮からの多栄救出作戦。
 わずか三人で、厳重な警戒の王宮から人一人を連れ出すというのは、これはずいぶんな不可能ミッションではありますが、ここで忍びとしての桃十郎のある側面が描かれることとなります。

 それは偸盗――戦闘者としてのイメージが強い桃十郎ですが、しかしそれは忍びとしての彼の一つの側面に過ぎません。敵地に潜入し、盗みを行う偸盗の術もまた忍びの技であり、そして凄腕の忍びである桃十郎も当然、偸盗の達人でもあるのです。
 かくて、桃十郎曰く「序・破・急」の三つの段階で多栄奪回ミッションに挑む三人ですが――

 晴信が桃十郎と首尾良く牢まで辿り着いてからが、ある意味この巻の真骨頂であります。
 晴信がそこで見たものは、人間の尊厳が踏みにじられた姿――少年漫画としてはかなりギリギリの描写で見せるその地獄の有様を見れば、晴信の憤りもまた、わがことのように理解できます。
 しかし、ここで晴信が取った行動は、我々読者にとっては予想の範囲内ではあるものの、やはり破天荒で――そして痛快この上ないもの。ここからラストまではまさに一気呵成、お約束の展開も含めて右肩上がりに盛り上がっていくのを、大いに楽しませていただきました。


 …私は本の紹介で「熱い」と「泣ける」という言葉は(便利すぎるために)できるだけ使わないようにしているのですが、しかし本作に対しては、まさにこの二つの言葉を使うべきでしょう。

 アユタヤとホンサワディーの本当の戦いはまだこれから。晴信を本気で怒らせたホンサワディーの奇怪な王子・マンサムキアット、そして彼の護衛であり、桃十郎をたじろがせた二人の怪人・喜悦と憤怒――黒き阿修羅と呼ばれる最強の敵との対決も、これからが本番であります。

 そしてこの先においても、熱く、泣かせる物語を見せてくれることを、私は全く疑っていないのであります。

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