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2012.08.19

「斗棋」 命を駒の殺人ゲーム

 黒田藩の宿場町・浅沼宿で対立を続けてきた斑目の彦左と天網の源次。一触即発となった両者は、親分が子分を駒とし、駒同士の殺し合いで勝負をつける人間将棋・斗棋で勝負をつけることとなる。彦左の子分で何をやっても中途半端な若者・逃げ足の勇次は、斗棋の歩の一人に選ばれてしまうのだが…

 デビュー以来ユニークな時代アクションを次々と発表している矢野隆は、作品にゲームの影響を強く受け、実際にゲームのノベライズを手がける作家でもあります。
 その作者が、これまでとは別のベクトルでゲームを扱ったとも言えるのが本作「斗棋」。宿場町を舞台に、二派に分かれたやくざたちが人間将棋で勝負をつけるという破天荒な作品であります。

 浅沼宿を長らく仕切ってきた顔役・扇屋徳兵衛。彼が病に倒れたことから、歯止めがなくなった二派のやくざ――徳兵衛の元から飛び出した斑目の彦左と、徳兵衛の跡目と目される天網の源次の間は、一触即発の状況となります。

 しかし、郡奉行の見回りも近い中、派手な喧嘩を始めるわけにはいかず…というところで、源次の用心棒の浪人・氷室蔵人が持ち出してきたのは、「斗棋」なる勝負の記録。
 それは、かつて百姓たちが水争いの決着を付けるため行ったという人間将棋――敵味方四十枚の駒それぞれに人間をあてがい、大将が盤上で駒を進めて、敵味方ぶつかったところで一騎打ちの戦いを行い、どちらかが死ぬか、降参するまで戦いを続けるという死のゲームであります。

 かくて、両派の完全決着のため文字通り命を駒にして、町外れで――賭博狂いの金持ちたちのみを観客に――開催されることとなった斗棋。
 その彦左側の歩の一枚に、何の因果か、逃げ足の早さしか取り柄のないうだつのあがらない若者・逃げ足の勇次が選ばれてしまうのですが…


 と、人間を駒にしたゲームというのは、ギャンブル劇画などでたまに見かける展開かと思いますが、それを小説で真っ正面でやったのは、少なくともここしばらくでは本作くらいのものではありますまいか。
 それだけでもうOK! と言いたくなってしまうのですが、そこで繰り広げられるバトルの数々もなかなかにユニーク。

 斗棋では、駒同士の戦いの前には、それぞれ得物を一つ選ぶことが可能というルール。そこで用意されるのは、短刀や刀はもちろんのこと、棒や槍や鎌…はまだしも木槌に銛に鎖鎌と武器のオンパレード(無茶苦茶のようですが、「用心棒」にもでかい木槌を持った奴がいましたね)。
 遣い手の方もなかなか個性的で、作中で繰り広げられる戦いのバラエティという点では、相当のものがあります。

 そういった点では実に魅力的であり、戦闘描写に特に重点を置いている作者らしいと感じられると同時に、終盤のどんでん返しなど、(途中で予想できるとはいえ)なぜ「斗棋が行われなければいけなかったか」という点まで踏み込んだもので、物語展開の方も含めて、なかなか楽しめる作品であることは間違いありません。


 しかし同時に、残念な点も少なくありません。
 その最たるものは、キャラクターの薄さでありましょう。登場人物がかなりの数に及ぶ本作ではありますが、その多くはキャラ造形がテンプレ的なものであるか、あるいは平板なものに感じられるのです。後者については、格闘ゲームのキャラクター的存在感とでも言いましょうか…特殊な舞台設定とはいえ。
(もう一つ、これは作者の責任ではないですが、盤面の状況が作中ほとんど図示されなかったのは非常にわかりにくかった、と感じます。頭の中で状況を再現するのがかなり厳しいのは、本作のような作品では大きなマイナスかと)

 もちろん、主人公たる勇次の内面描写(とその変化)には頷ける面も多いのですが、彼をとりまく人物、特に彼の成長に寄与する人物の造形がいかにも…なものであるため、一歩間違えると彼の成長自体が空々しく見えかねないと感じるのであります。
 さらに言えば――これは作者の前々作にあたる「兇」でも感じましたが――全てを言葉にして語らせてしまうのは、逆効果になる場合も多いのではないでしょうか。

 舞台設定よし、バトル描写よし、あとは…と感じた次第です。

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斗棋

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コメント

 降参はともかく死亡したキャラを、手駒として再利用できそうもないのが、「将棋」としては残念です。

 いや、ネクロマンサーがいれば、あるいは…

 

投稿: ちゅるふ | 2012.08.25 21:26

ちゅるふ様:
さすがに作中でも、負けたキャラは(生死を問わず)もう二度と使えないという設定でしたね…当たり前といえば当たり前なのですが、どんどん盤上が寂しくなっていく将棋というのも、確かに違和感が。

投稿: 三田主水 | 2012.08.31 21:26

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