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2012.08.02

「娘同心七変化 謎の黄金観音」 娘同心が守るべきもの

 神出鬼没の凶悪な盗賊・幻組を追う北町奉行所の娘同心・古手川美鈴は、幻組の次の狙いが悪徳商人と結ぶ普請奉行の家に伝わる黄金観音像だと知る。さらに観音像を狙う謎の一団も加わった大乱戦の中、美鈴の前に、幻組頭領の娘で二本鞭の使い手・血桜お煉が立ち塞がる。果たして黄金観音の秘密とは…

 北町奉行所の見習い同心・古手川鈴之助こと、娘同心・古手川美鈴が帰ってきました。
 町の柔術道場の娘で強い正義感の持ち主の彼女は、偶然将軍家斉の若君を救った褒美代わりに町方同心になることを望み、かくて生まれたのは前代未聞の娘同心(といっても表向きはあくまでも男装しているのですが…)。 その正体を知る数少ない人間である熱血同心・石見新三郎と岡っ引きの源蔵親分らとともに、彼女は得意の七変化を駆使して、彼女は江戸を騒がす様々な悪と対決するのであります。

 そのシリーズ第2弾である本作に登場するのは、盗人ややくざを脅してはその上前をはね、拒む者は容赦なく殺すという残虐非道な盗賊・幻組。その探索を命じられた美鈴と新三郎は、やがて、悪徳商人・南部屋と結んだ勘定奉行・浅井弾正が秘蔵する曰くありげな黄金観音を巡って、幻組・南部屋一派・そして黄金観音を追う謎の一団と、三つ巴、四つ巴の乱戦を繰り広げることとなります。

 作者が大の男装美少女好きであることは、前作の感想などでも触れましたが、本作ではそれに加えて、これまた作者が大好きな凶悪な美女である血桜お煉が登場。
 幻組頭領の娘であり、二条の南蛮鞭の達人であるお煉(当然ながら、非常にサディスティックな性格であります)と美鈴の激突は、言うなれば凶女vs聖女の対決ですが、どちらも作者の思い入れがあるだけに、実に生き生きとした活躍を見せてくれます。
(もう一人、レギュラーキャラのナイスバディで気っ風の良い女やくざであるジャガタラお千姐さんも、実によいツンデレっぷり…じゃなくて女侠ぶりを披露してくれるのも楽しい)

 つまりは本作も作者がノリにノって書いた作品であることは明確なのですが、しかし本作は、それだけに留まるものではありません。
 町方同心、すなわち法の体現者として活躍する美鈴。しかし本作において彼女は、幕府の法では悪とされながらも、しかし彼女自身の想いとしては、単純にそうとは決めきれない人々と出会います。
 果たして彼女が従うべきは、守るべきは何なのか。盗賊や殺人鬼といった、明快な悪人を相手にするのとは異なる難問に、彼女は直面することとなります。

 もちろん、本作はあくまでも痛快エンターテイメントであり、善悪二元論を根底から問う、という趣向の作品ではありません。
 本作のラストの美鈴の痛快な名乗り「私は、女子供や弱い者にひどいことをする悪党を絶対に許さない者……北町奉行所定町廻り新米同心見習い、古手川鈴之助だっ!」に見られる結論も、単純といえば単純であり、周囲のある意味物わかりの良い善意に支えられたものであることは否めません。

 しかし、単純明快なエンターテイメントであるからこそ、描ける真実もまたあります
 そして、娘にして同心という、異なる二つの世界に身を置く者だからこそ、語れる言葉もあります。

 前作、そして「ご存じ大岡越前」と、最近の作者は、法とその番人がいかにあるべきかということを、作品の中で追求しているように感じられます。
 そしてその試みは、本作でも同様なのであります。


 と、小難しいことを書いた後になんですが、鳴海作品にはお馴染みの笠井あゆみによる表紙絵の美鈴は文句なしに可愛い。本当に可愛い。
 あまりに可愛すぎるのも男装同心としていかがなものかと思いますが、もちろんこれはこれで大いにアリなのであります。

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