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2012.08.16

「猫間地獄のわらべ歌」 時代ミステリの快作? 怪作?

 猫間藩江戸下屋敷の書物蔵で御広敷番が切腹、藩主の愛妾・和泉ノ方はこの不祥事を隠すため、「俺」にこの事件を密室殺人に仕立てるよう命じる。一方、藩の国元では、被害者が首を斬られる連続殺人事件が発生。不気味なわらべ歌の通り、犠牲者が続出する。果たして一連の事件に繋がりは…?

 ミステリファン、時代小説ファンの間で賛否両論(であろうところ)の快作/怪作「猫間地獄のわらべ歌」であります。

 信濃と駿河に挟まれた山中の小藩・猫間藩。その藩主の側室・和泉ノ御方が住む江戸下屋敷の内側から施錠された書物蔵で、一人の藩士の死体が発見されたことから、この物語は始まります。

 その死体は腹に脇差を刺した姿で発見され…とくれば、普通は覚悟の切腹と考えるところですが、不祥事を嫌った和泉ノ御方は、中屋敷の御使番である主人公「俺」にとんでもない命を下します。
 それは、この藩士の死を「密室殺人」として処理せよ=密室トリックをでっち上げろというもの。藩主の愛妾に逆らうわけにもいかず、主人公は徒目付の静馬とともに、このまことに馬鹿馬鹿しい探偵仕事に挑むことになるのであります。

 一方、厳しい飢饉と銀山奉行の専横に苦しむ国元では、ある村人夫婦を巡る痛ましい事件を皮切りとしたように、犠牲者が首を斬られる殺人事件が連続。
 その様が、土地に伝わるわらべ歌に似ていると噂になったことから、これはもしや「見立て殺人」ではないかとの声が上がるのですが…


 と、江戸と国元を舞台に、猫間藩を巡る奇怪な事件の数々が描かれる本作。
 密室殺人(のでっちあげ)に見立て殺人、さらに館(?)ものと、ある意味ミステリの定番ネタを次々と投入した末、本作は意外な真相を明らかにすることとなります。

 正直なところ、本作で描かれるそれぞれの事件の個々のトリックについては、さまで珍しいものではない、という印象はあります。
 しかしながら、どの事件も、この舞台で起きることにきちんと意味があり(密室のでっちあげすらも!)、それが一つの大きな物語として結実する様は、大いに好みであり、その意味では時代ものとして描く必然性のあるミステリ、すなわち時代ミステリとして大いに評価できるかと思います。

 その一方でどうにも感心できないのは、作中にしばしば挿入される、登場人物たちによる、物語の内容、そしてミステリや時代小説というジャンルに対するメタな解説部分であります。
 たとえば「密室殺人」や「見立て殺人」という趣向に対して、そしてそれらの事件の真相に対して、突然第三者的視点に立って登場人物がツッコミを始めるというのは、それ自体は決して悪くはない趣向かもしれません。しかしながら、折角本編が頑張っているのに、言い訳が入るのはいかにも興ざめであります。

 更に言えば、第三章のラストに入るメタ部分は、喩えがあからさまにおかしいため(それもネタの一部なのかもしれませんが)見当違いに感じられるのが残念です。
(もっとも、時代小説ファンとしては第三章の趣向はそれほどおかしなものと感じなかったため、この部分は純粋なミステリファン向けのエクスキューズなのかもしれませんが…)


 …などと、感心させられる点もひっかかる点も様々にあるのですが、しかし全体を通しての本作の印象が良いものとなっているのは、その結末にあります。
 その趣向についてはここではもちろん述べませんが、こんな仕掛けが! と驚かされるものであることは請け合い(そして時代ものファンであれば冒頭で気づけるものであるのがまたにくい)。

 ある意味非常に重い、恐ろしい事件を描いた本作ですが、この結末の切れ味によって、爽やかな後味に変わっているのは、これは作者の術中にはまったようで悔しくもありますが、しかしこういう趣向は大歓迎であります。

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