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2012.08.24

「春疾風 続・三悪人」 この世の苦しみを紛らわすために

 幕閣の中枢に登るため、唐津から浜松への転封を行った忠邦に対し、若手藩士と江戸家老が不満を募らせていることを知った金四郎と耀蔵。さらに大奥女中の乱行に絡んでいたことで窮地に陥った忠邦に恩を売るべく動き出す二人だが、忠邦は耀蔵に誘いの手を伸ばす。果たして三悪人の騙し合いの行方は?

 遠山金四郎、鳥居耀蔵、水野忠邦の三悪人が帰ってきました。後に天保の改革を背景に火花を散らすこの三人の若き日を描いた「三悪人」の続編であります。
 悪巧みが何よりの好物である金四郎と耀蔵が、自分たちの将来のため、そして金四郎の恋人である薄幸の花魁を救うため、忠邦を関所破りに巻き込んで…という前作は、既存のイメージを超えた三悪人のキャラクター造形と、彼らが知恵と力の限りを尽くした騙し合いの様が実に楽しかった作品。
 本作でもその基本スタイルは変わりませんが、物語の中心が、水野家の、忠邦のお家事情である点が目を惹きます。

 かつては石高以上に内証豊かな唐津を領地としながらも、同じ石高の浜松への転封を自ら望んだ忠邦。
 これは、幕府の要職に登り詰めることを望んだ忠邦が、唐津藩は長崎の警備を担当していることが昇格の妨げになるために、あえて願い出たという有名なエピソードであり、しばしば、彼の幕政に対する熱意あるいは執念の表れとして語られる史実であります。
 しかしこの転封は実質十万石もの石高減に繋がり、それを不満に思う者が家内に多かったのもまた事実。実際、諫言のため、家老の二本松義廉が腹を切っているのですが…

 本作では、このような水野家中における忠邦への不満が、若手藩士の策動、そしてその背後で糸を引く江戸家老の陰謀に繋がり、二本松の幽霊が出没するという噂が、家中、いや江戸を駆け巡ることになります。
 さらに、当時寺社奉行であった忠邦が、大奥の歓心を買うために僧侶をあてがい、それをさらに政敵になすりつけようとしたことが明るみに出され、忠邦は内外の不始末から、登城停止を申し渡されることに――

 と、このような忠邦の窮地を、金四郎と耀蔵が見逃すはずもない。お家騒動を片付け、醜聞を揉み消して忠邦に恩を売るため、二人は早速動き出します。
 そしてもちろん、忠邦も窮地に手をこまねいているだけのはずがない。二人を利用し、さらに仲違いまで画策して、ここに三者三様の思惑が入りみだれた化かし合いが始まることになる…という次第。


 さて、全体的な印象でいえば、明確なクライマックスが早い段階で提示される前作に比べると、事件の落としどころが終盤まで不透明な本作は、いささかすっきりしない部分があるのは事実であります。
 本シリーズの特長であり、醍醐味である狐の狸の化かし合い的会話劇も、上記の印象を強めている感があります。

 そもそも、今回の物語自体、水野家のお家騒動の後始末という趣向で、前作のような弱者救済という痛快感が乏しいのですが――さすがにこれは、「悪人」を主人公とした作品に対して、野暮というものかもしれません。

 …いやむしろ、本作は、三人に限らずこの世は悪人ばかり、違いがあるとすれば、優れた悪人と劣った悪人がいることくらいというこの世の真実(の一面)を描いた作品と表すべきでしょうか。
 それでは、純粋な正義の味方などいない、そんな救いのない世界において、人はどのように生きるべきでしょうか?

 その答は、ほかならぬ悪人の一人である金四郎の行動――己の鬱屈は悪巧みによって紛らわせる――の中にあるのでしょう。
 悪人であっても逃れられないこの世の苦しみ。それを紛らわせる術を知るからこそ、耀蔵が、そして忠邦すら金四郎にある意味惹かれているのは、まさにそのためではないか…そんな印象を受けたことです。

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