« 「笑傲江湖」 第21集「江南四友」/第22集「湖底の囚人」 | トップページ | 「楊令伝 十五 天穹の章」 幻の王が去る時 »

2012.09.06

「後巷説百物語」第2巻 怪異の中に二重の時代性を描く

 京極夏彦の「後巷説百物語」を、日高建男が漫画化した第2巻は、一巻丸々使った「天火」のエピソード。
 明治の事件と江戸の怪事が交錯した末に浮かび上がるものは…

 今日も今日とて、明治の東京で激論を戦わせる若人四人。巡査の剣之進が持ち込んだ怪火にまつわる事件に対して、その真偽を議論していたのであります。
 周囲で小火が相次ぎ、ついには店から出火した両国の油屋。小火の現場で目撃された後妻は犯行を否定し、それどころか店の出火は前妻の恨みの火によるものだと証言したと。
 かくて、光物、狐火、鬼火…様々な怪火の存在が議論された末に、一白翁――百介のもとに話が持ち込まれ、彼が若き日に出会った事件が語られる、という展開となります。

 ここで一白翁が語ったのは、「天火」にまつわる事件。
 さる藩内で慕われていた名代官と、その淫奔な妻、そして彼女に言い寄られた旅の僧――誘惑を跳ね除けた僧を恨みに思った代官の妻が夫に讒言し、それによって代官に首をはねられた僧の恨みの火が天から降って夫妻を焼き殺したという、いわゆる二恨坊の火の物語を地でいくような構図の物語であります。

 が、翁が語るのは、すなわち百介が経験したのは、あくまでも実話。そしてここで言う旅の僧・天行坊が、お馴染み御行の又市であった、というのが穏やかではありません。
 事態は二恨坊の火の物語の通りに展開し、あわれ天行坊の又市は代官に首を打たれた末に晒され、そしてその恨みの火が代官屋敷を夫妻もろとも焼き尽くす――

 と言っても、又市が絡む時点でこれが一種の仕掛けであるというのは、我々にとっては明白なわけですが、しかしむしろ本作のメインとなるのは、ハウダニットではなく、ホワイダニットの部分であり、そこに本作の特異性があるとすら言えます。
(正直、ハウダニットに関しては、シリーズの多くのエピソード同様、今回もかなり反則気味ではありますので…)

 実は今回の物語は、背景に史実上のある事件が存在する、その事件あってこそ初めて成立する内容であり、それが最大の特徴であると言えます。

 これまでの「巷説」シリーズでは、事件の背景となる年代はほとんど描かれてこなかった――言い換えれば、江戸のどこかの時代、という表現で済んだ内容でありました。
 一方、今回の「後」シリーズにおいては、明治の初期という基点を置いて、そこから遡って江戸の事件を語るというスタイル。

 今回はそこにさらに江戸の特定の時期を設定することにより、二重の時代性を与えているというのが、何とも面白く感じられます。
 さらに、冒頭で触れたように今回は明治の事件と江戸の怪異の二つが語られるエピソード。その二つは似て非なるものではありますが、しかし怪火という存在を挟んで、その二つの時代の――四人の若者に代表されるように、それに対する周囲の反応も含めて――違いを浮き彫りにした点が、興味深く感じられた次第です。


 相変わらず漫画としては台詞と説明が多すぎるきらいはありますが(もっとも、あの原作をこれ以外のスタイルで忠実に漫画化するのはほとんど不可能かと)、天火が下ったシーンの迫力などは、やはりビジュアルあってこそのものでありましょう。
 何よりも又市をはじめとするキャラクターのビジュアルは、もはや本作のそれ以外では想像できなくなっているところ、先日スタートしたばかりの次なるエピソードも楽しみなのであります。

「後巷説百物語」第2巻(日高建男&京極夏彦 リイド社SPコミックス) Amazon
後巷説百物語 2 (SPコミックス)


関連記事
 「巷説百物語」第1巻 リアルな心、妖怪というフィクション
 「巷説百物語」第2巻 適度にリアル、適度に漫画的
 「巷説百物語」第3巻 漫画チックさに負けない漫画版
 「巷説百物語」第4巻 日高版百物語、ひとまず完結
 「後巷説百物語」第1巻 江戸・明治・現代を貫く眼差し

|

« 「笑傲江湖」 第21集「江南四友」/第22集「湖底の囚人」 | トップページ | 「楊令伝 十五 天穹の章」 幻の王が去る時 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/55566275

この記事へのトラックバック一覧です: 「後巷説百物語」第2巻 怪異の中に二重の時代性を描く:

« 「笑傲江湖」 第21集「江南四友」/第22集「湖底の囚人」 | トップページ | 「楊令伝 十五 天穹の章」 幻の王が去る時 »