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2012.09.10

「ねたもと」 江戸文化は風呂屋に花開く!?

 時は寛政2年、平賀源内に憧れて大作家を目指す少年・菊池久徳は、なりゆきから湯屋で今をときめく喜多川歌麿と絵の勝負をすることとなる。かつての憧れの女性、今は吉原の振袖新造・お妙の姿を題材に始まった勝負の行方は…

 「危機之助御免」「CLOCKWORK」と、ユニークな時代漫画の原作を手がけてきた富沢義彦の新作が「グランドジャンプ」誌に掲載されました。
 舞台となる時代は江戸の出版文化が花開いた寛政年間、大作家を目指す少年が、あの喜多川歌麿を向こうに回して大勝負を繰り広げることとなります。

 書物の知識と耳の良さ、そして自惚れでは誰にも負けないと自負する少年・菊池久徳。普段は書肆でアルバイトしている彼は、そこで知り合った女の子たちと風呂屋で逢い引きすることに(当時の風呂屋は混浴…もありました)。
 が、そこに現れた今をときめく人気絵師・喜多川歌麿に女の子たちの目線は釘付け。面白くない久徳は、歌麿と女の子たちの裸をモデルに絵画対決を繰り広げることとなるのですが…


 冒頭で述べたとおり、舞台となる寛政年間は、浮世絵、読本など、印刷技術の発達を背景に、様々な文化が花開いた時代。そんな背景を踏まえながらも、しかしさらりと軽く、今に通じる形でその時代を描くのが、いわば富沢流。
 本作においても、将来の人気アーティストを目指してバイトに励む主人公を通して、この時代の活気に満ちた文化の一シーンを切り出していると言えます。

 しかし面白いのは、それが裸体画勝負という点でしょう。
 本作が掲載された「グランドジャンプ」誌は、青年誌。青年誌といえば、お色気がつきもの…というのは偏見かもしれませんが、風呂屋を舞台に絵画勝負→当然モデルはハダカ! という流れるように自然に(?)お色気を繰り出してくるのはアイディアであります(そしてそれが単なるウケ狙いではないことが、ラストにわかるという構成が実に心憎い!)

 ただし気になったのは、その勝負で描かれるのが、あくまでも当時の浮世絵ということで――すなわち、人間の顔や躰を大胆に簡略化した、ディフォルメした絵柄で、モデルが描かれることとなるわけです。
 そのため、いかにも漫画チックな美少女・美女が、いざ絵になると浮世絵タッチになるのですが、そのギャップは、当時の浮世絵というものを知らない読者が見たら相当違和感を感じるのでは…と、勝手に心配になってしまったのであります。

 しかしそれは取り越し苦労。
 極端にディフォルメされたタッチだからこそ、逆にその中に浮かび上がるのは描き手の想い。そしてそれこそが、作品に触れた者の心を動かす――
 言葉にすれば当たり前に見えるかもしれないその事実を、しかし鮮やかに心に落ちる形で描き出して見せたのには、大いに唸らされた次第です。
(ちなみに作画のたみ氏のブログによれば、今回対決を演じた二人の浮世絵のタッチを参考にして漫画を描いたというのにも感心)

 久徳が実は後の○○○○だった、という結末も決まって、まずは綺麗にまとまった作品であったかと思います。

 しかし、寛政という時代には、まだまだ面白い人物が、事件が目白押し。幕府による芸術の表現規制など、今に通じる題材も色々と存在します。
 単発の読み切りで終わるのはまだまだもったいない、こうした題材を、富沢流の切り口で料理した物語をまだまだ読んでみたい、続編が読みたい――そう感じたのもまた事実であります。

「ねたもと」(たみ&富沢義彦 「グランドジャンプ」2012年No.20)

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