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2012.09.04

「送り人の娘」 人と神々の愛憎と生死

 「送り人」の老婆・真由良は、一族が皆殺しされた中で生まれた赤ん坊・伊予を自らの後継者に選び育てる。送り人としての修行を重ね、13歳になった伊予。ある日死んだ狼を甦らせてしまった伊予は、かつて彼女の一族を滅ぼした猛日王に、その力を狙われることになる。王の手から一度は逃れた伊予だが…

 私にとって、廣島礼子という作家は、ちょっと気になる存在であります。
 何しろその作品の多くは、悪人の魂を集める美しい妖魔の姫を描く「鬼が辻にあやかしあり」、室町の戦乱を背景にした角を奪われた妖の子と少年の冒険譚「盗角妖伝」など、児童文学ながらちょっとダークな味わいの時代ものなのですから…

 本作もまた、実に作者らしい味わいの古代ファンタジー。死んだ者の魂を黄泉に送る「送り人」の力を持った少女を通して、人と神の愛と憎、生と死を描く物語です。

 老いたる送り人・真由良に育てられた少女・伊予。実は彼女は穂高見の猛日王により皆殺しとされた火具地の一族の最後の一人という、自分でも知らぬ出生の秘密を持っていました。
 ある日、山で残忍な人間に殺された狼と出会い、自分でも意識しない力をもって狼を甦らせた伊予。それを知った猛日王は、伊予を掌中に収めんと動き始めます。

 死しても魂は黄泉に行くことなく、転生してこの世に帰ってくるという火具地の民。若き征服者として恐れられながらも、病的なまでに死を恐れる猛日王は、最後の火具地の民である伊予の持つ甦りの力を、自らのものにしようとしていたのであります。

 甦った狼、実は妖魔の女王・闇真に守られて王の手から逃れ、自分と同じ火具地の民の生き残りの少年・狭霧と出会うことで火具地の民に課せられた宿命を知る伊予。
 しかし再び迫った王の手に捕らわれた伊予と狭霧に、さらに過酷な運命が襲いかかることになります。

 本作の主人公・伊予は、人の魂を黄泉に導く送り人であり、同時に魂の再生を行う火具地の民という、二つの属性を持つキャラクター。
 どちらも生と死に関わるものでありつつも、本来であれば相反する力を兼ね備えた伊予を通じ、本作では人間の、そして神々の、生/生命というものが、浮き彫りにされるのです。

 誰もが恐れ、そして決して逃れられない死という出来事。ある意味生の極みというべきそれに対する態度は、同時に、生に、生命に対する態度であり――そしてその中で、己のみならず、他者の存在をどれだけ考えることができるかが、愛ということなのかもしれません。


 と、そんなことを考えさせてくれる一方で、本作はいかにも作者らしい、児童文学ギリギリなダークさを見せてくれます。

 他者の命を虫けらのように扱いながらも、己の命を失うことを病的に恐れ、それがさらに凶行に繋がる猛日王(彼がむしろ青春美の結晶のような姿である皮肉!)。そしてそんな彼に執着し、全てを捧げようとする者たち…
 人の世のある種の歪みを代表する彼らの姿は、その想いに共感できぬまでも理解できるだけに、一層キツく感じられます。

 そしてまた、終盤に登場する黄泉路の魔物や、地上に縛り付けられた死霊たちのおぞましい姿にも、一切容赦がないのが嬉しい。児童文学であろうと手は抜かない姿勢には、ホラーファンタジーの名手としての作者としての面目躍如たるものがあります。

 さらにいえば、火具地の民が何故転生を続けるのか、何故その魂が黄泉に行くことがないのかという理由付けが、見事に本作の背景である日本神話と結びついたものとして用意されているのには、なるほど! と膝を打ちました。
 そしてこの伝奇的仕掛けが、クライマックスに待つ、ある救済に繋がっていくというのもまた見事です。


 やはり作者の作品は見逃せない…その想いを今回もまた新たにしたところであります。

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