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2012.09.21

「尼子十勇士伝 赤い旋風篇」 信義の士の向かう先は

 尼子氏に代々仕えてきた山中家の少年・鹿之介は、尼子晴久が、一門の国久率いる新宮党を皆殺しにするのを目撃し、密かに国久の孫を逃す。やがて城に勤めることとなった鹿之介は、戦場で活躍するお馬番組の一員となるが、毛利家の攻撃と、内部の権力闘争で既に尼子家は風前の灯火だった…

 一昨年に惜しくも亡くなった児童文学者・後藤竜二の遺作が、本作「尼子十勇士伝 赤い旋風篇」であります。
 尼子十勇士とは、軍記物・講談で知られる、尼子家再興のために戦ったという十人の勇士。山中鹿之介(幸盛)を筆頭とする彼ら十人は、実在が疑わしい者もおり、そして残念ながら現代では知る者も少なくなってはおりますが、本作は彼らに新しい命を吹き込もうとした試みと思われます。

 その本来であれば上巻となるはずだった本作では、山中鹿之介が初陣を飾り、そして尼子家が衰亡していく中に戦いを重ね、ついに本拠たる富田城が落城し、いずこかに去っていくまでが描かれることとなります。

 少年時代から口数少なく、変わり者と見られていた鹿之介。そんな彼が親近感を抱いていた尼子国久以下の新宮党は、ある日、毛利家の謀略に載せられた国主・晴久により、老若男女を問わず誅殺されることとなります。
 偶然、国久の孫が逃れる場に居合わせた鹿之介は、彼を逃すのですが…(本作では描かれませんでしたが、これが後の彼の主君・勝久でありましょう)

 たとえ一族であろうとも平然とその命を奪う尼子家の在り方に疑問を抱きつつも、元服して城に勤めることとなり、、そこでかつて新宮党を攻め滅ぼした大西高由以下のお馬番組に加えられる鹿之介。
 はじめはそのことに蟠りを感じつつも、しかしそれも侍の習い、何よりもさっぱりとした気性で年の近い武士たちの中で、鹿之介は頭角を現していくことになります。

 しかしついに迎えた初陣で彼が見たものは、自分たちの都合や面子のみを考え、領内からの救援要請を平然と断るような尼子家の人々の姿。それに憤るお馬番組は、命令違反してまでも吉川元春に攻められる温湯城にわずか五十騎で入城し、自分たちの何倍もの敵の軍勢に挑むこととなります。
 その先頭には、新宮党が残した名馬・青嵐に乗り、三日月の前立を頂いた赤い鎧に身を包んだ鹿之介の姿が――


 と、ここからは戦場での鹿之介の活躍が(活躍も)描かれるのですが、しかし本作で展開されるのは、、颯爽たる戦国の英雄豪傑譚などではなく、むしろとてつもなく重くやるせない、人間たちのドラマであります。

 幼くして死別した父から、戦国武士に最も必要なものが「信義」であると教えられた鹿之介。その思いを胸に、戦場で戦おうとした鹿之介が見たものは、しかし疑念・裏切り・我欲・嫉妬――それとは無縁の、人間の醜いエゴの姿であります。

 人より富み栄えたい、長く生きたい、その思い自体は(特に戦国という時代においては)決して否定されるものではありません。
 しかしそれが、人として最低限守るべき信義を違えるものであれば――そしてそれが、自らが仕えるべき主君・重臣たちのものであった時に、如何にするべきか?
(そしてそれが、いかんともしがたい人の弱さに起因するものであった場合特に…)

 鹿之介が直面したこの悩みは、もちろん戦国固有のものではありますが、しかし、程度の差こそあれ、似たような状況は、現代の、我々の周囲にも無数に存在しているのもまた事実であります。
 それだけに、彼が、あまりに厳しく辛い状況をどのように切り開き、己の信義を貫くか、それを見届けたかったのですが――

 冒頭に述べたとおり、本作が作者の遺作。戦国史に残る壮絶な籠城戦の末、尼子氏の本城・富田城は落城し、辛くも命を許された鹿之介が何処かへ去る場面で物語は幕を閉じ、その続きが描かれることは(少なくとも現時点では)ありません。

 鹿之介の家伝の兜の三日月の前立――その三日月は、彼のトレードマークとも言えますが、満月までは遠く、いまだか細くかき消えそうなその姿は、彼の歩む艱難辛苦の道のりを連想させます。
 歴史を紐解けば、その結末がわかっている彼の生き様を描く物語が、ここで途絶しているのが良いのか、はたまた作者を変えても書き続けられるべきなのか――それが今なお、私の心を悩ませているのであります。


「尼子十勇士伝 赤い旋風篇」(後藤竜二 新日本出版社) Amazon
尼子十勇士伝―赤い旋風篇

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