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2012.10.02

「新・水滸伝」第2巻 魅力の皮肉な再確認

 現代中国においてリライトされた「水滸新伝」を翻訳した「新・水滸伝」、全5巻中の第2巻であります。原典で言えば、青州での花栄たちの戦いから、武松の活躍を描くいわゆる「武十回」の件が収められていますが、しかしその間には、大幅にオリジナルエピソードが挿入されています。

 そのオリジナルエピソードとは、混江竜李俊を主役にしたものと、八臂那?項充を主役にしたもの。
 うち、李俊編は4回ほどですが、項充編は実に12回と、この第2巻収録分の1/3以上を占める大作となっております。
 その部分を含めて、原典との主な相違点を以下に挙げましょう。

・孫立は花栄らを追いつめるが、奸臣たちに弾劾されて失脚、部下の韓滔・彭キらを連れて隠棲。
・李俊は阮三兄弟と旧知の仲で李立は実弟。役人による漁師への弾圧に反抗して捕らえられるが、李俊の義兄弟で侠盗の通臂猿侯健と梁山泊軍に救い出される。
・項充は登州の交易商。搗海鰐欧鵬と火眼キュウ鄧飛は項充の父の代からの腹心。石勇は使用人の一人。蕭譲は項充の遠縁で、妹の項瑩娘の婿となる。
・孟康は項充の親友で造船の名手。陶宗旺は悪辣な網元を殺して無人島に逃れた漁師。丁得孫は製塩場の人足のリーダー。
・項充たちは金持ちと結託した役人たちに重税をかけられて蜂起、一度は敗れるも項瑩娘の活躍もあって悪人を一掃して梁山泊に奔る。
・武松のエピソードは大半は原典のままだが、流刑先の都管に苦しめられていた歌唄いの玉蘭を助けたことがきっかけで、鴛鴦楼の虐殺を引き起こす。
・楽和は王都尉の副官で、蜈蚣嶺で悪人たちに襲われていたのを二竜山に向かう途中の武松に救われる。

 この通り、上でも触れた項充編は、完全にオリジナルエピソード。
 原典では初め樊瑞の子分、後に李逵のサポートとと、大して目立たず、固有エピソードもほとんどなかった項充がいったい何故――横光水滸伝といい、項充には何か創作者を惹きつけるものがあるのか? というのは冗談にしても、原典と同じなのは名前のみ、後は全く異なるキャラクターというのは一体何故…と作者に聞いてみたくなります。

 しかも、この項充編のかなりの割合を占めるのは、妹の瑩娘の活躍。項充たちが軍に攻められ、一度は死んだと思われた後、その美貌に目を付けた金持ち(もちろん悪人)を手玉に取って捕らわれた人々を助け、最後は金持ちの首を掻き切って逃れるというエピソードなのですが…
 いやはや、項充たちはまだ名前が同じと思って我慢するとしても、全くのオリジナルキャラクターの物語を延々と読まされるのはかなり辛い。

 これで物語自体が面白ければ良いのですが、瑩娘の知恵者ぶりはそれなりに楽しめるものの、それに振り回される悪役が頭が空っぽの色ボケ親父でしかないため、敵討ちにもカタルシスがないのが困りもの。
 というより本作のオリジナルの悪役たちは、基本的に権力と金の力でごり押しする以外能のないボンクラ揃いで、単なるやられ役の域を脱していないため、物語自体にも魅力が感じられないのであります。

 これまた間が悪いことに――と言うのは失礼に過ぎるかもしれませんが――この後にほとんど原典そのままの形で収録されているのが武松の敵討ち、すなわちあの潘金蓮と西門慶の物語。
 この件、冷静に考えてみると、実にスケールの小さな物語なのですが、しかし登場人物、特に悪人たちの人物造形がよく出来ていて、今の目で見てもそれなり以上に楽しめます(特に密通を手引きする王婆さんのキャラは秀逸)。

 この「新・水滸伝」は、原典を現代にも通用するようにリライトした、と言うべき作品ですが、しかしそれがこうして原典自体の魅力を再確認させてくれたというのは皮肉な話と言えるでしょう。

 この巻は、武松が白虎荘で宋江と再会するまでが描かれますが、さて第3巻では何が描かれるのか?
 全く見たことのない水滸伝物語に期待したいところですが…個人的には不安が高まってきました。

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