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2012.10.22

「猫絵十兵衛 御伽草紙」第6巻 猫かわいがりしない現実の描写

 もはやおなじみ、不思議な力を持つ猫絵師・十兵衛と、相棒の猫又・ニタのコンビが活躍する「猫絵十兵衛 御伽草紙」の待望の新刊、第6巻であります。

 いつ見ても安心のクオリティの本作ですが、最新巻は――新レギュラー登場や十兵衛やニタの過去といった――イベント的なエピソードはほとんどなく、十兵衛とニタを狂言回しとしたちょっとイイ話が中心となっています。

 川に捨てられていたのを十兵衛とニタに拾われながら、なかなか心を開こうとしない子猫の物語「隙間猫」
 寝込んでしまった猫の蚤取り屋の祖父の助けになろうとする孫娘と寺子屋の子供たちの奔走記「猫の蚤取り屋」
 佐助への想いが父親にばれて引き離されてしまったおもとの魂が、光る鳥となって抜け出してしまう「光る鳥と取持ち猫」
 博打と酒に目がない十玄師匠の新弟子が、ある晩猫を拾って以来、博打でツキにツキまくるも…な「如何様猫」
 節分の晩、身寄りを亡くした老婆のもとにやってきた子鬼と猫又たちの交流を描く「鬼やらいと猫オニ」
仲の良かった筆師の三兄弟に母親が遺産を残したことから生じた亀裂を、飼われていた猫が修復する「春告猫」

 以上六編、いずれも派手さはありませんが、安心して読める佳品揃いであります。

 以前からの読者としては、サブレギュラーの左官の佐助と大店の末娘・おもとの恋模様が(いかにも本作らしい展開で)進展していくのが読めたのも嬉しいのですが、今さらながらに感心してしまったのは、猫描写の巧みさであります。

 本作に登場する様々な猫――普通の猫も、猫又も含めて、その猫の可愛らしさは言うまでもありませんが、それだけではない猫の姿をもきちんと描き出すのが本作。
 心ない人間によって川に落とされて泥だらけとなった「隙間猫」の子猫、寒空に震え目脂と鼻水だらけの顔を見せる「如何様猫」の野良猫――人間に飼われるばかりではない猫のリアルな、そして過酷な姿を、本作では時に描き出します。

 イイ話というのは、甘いだけの話のことではありません。世の中の辛さ、切なさもあるからこそ、同時に世の中の美しさ、温かさも際立つ。
 当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、「猫かわいがり」しないで現実を描く本作の猫描写は――物語にファンタジー性があるからこそ――それをはっきりと再確認させてくれます。


 心配な点と言えば、単行本の刊行スピードがちと遅い(連載との差が開くばかりな)ことですが、それは先の楽しみが多いと考えましょう。
 この先も、厳しくも素敵なイイ話を見せていただきたいものです。


 ちなみに個人的に今回印象に残ったのは、「如何様猫」で弟弟子に当たる放蕩絵師が、十兵衛を見て言った「妖術を使いそうな頭」というセリフであります。
 作中では普通に受け入れられていますが、やはり十兵衛もまたアウトサイダーなのだ…というのは穿った見方かもしれませんが。

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