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2012.10.28

「双子幻綺行 洛陽城推理譚」(その二) 宦官探偵の孤闘の行方

 昨日の続き、森福都の「双子幻綺行 洛陽城推理譚」紹介であります。

「菊華酒」
 評判の美男・謝康生から、重陽の日の菊狩りに誘われた香連と九郎。向かった菊作りの里では、毎年この時期に動物の不審死が…

 本作では後半のキーパーソンともいえる謝康生が登場。颯爽たる美男ぶりで宮中の内外で人気を集める新進官僚の彼に、香連も興味を惹かれるのですが…

 さて、本作で描かれるのは、菊作りの里でこの数年、秋に起きるという犬猫の大量死。確かに不審ではありますが、しかし犯罪性はなさそうなこの事件の背後に隠れた恐るべき意図を九郎が看破することとなります。
 が、本作はそれだけでは終わりません。その更に奥に隠された、ある人物のおぞましい意図は、宮中に集う人間たちの闇を描いた本作ならではのものと言えるでしょう。


「浮蟻珠」

 巨大な真珠・浮蟻珠を削り、薬にせんとする則天武后。しかし宝物庫から浮蟻珠が消え、その犯人として九郎が捕らわれることに!?

 名探偵が犯罪者として捕らえられてしまうというのはままあるパターンですが、本作はまさにそれ。かつて則天武后が夫から送られたという巨大な真珠・浮蟻珠が宝物庫から消失し、それを取り出すよう命じられていた九郎が犯人として捕らえられてしまいます。

 九郎の逆襲が興味を惹くエピソードではありますが、しかし中心となるのはむしろ老いた則天武后の心理状態なのが面白い。夫との思い出が籠もった真珠を削って長命の薬としようとする行為の中に、彼女の人物の一端が現れているように感じられるのです。
 そして九郎が無実の証を立てるのも、その思い出によるというのもまた巧みであります(さらにそこからもう一波乱あるというのもまた…)。


「膠牙糖」

 短刀型の膠牙糖を凶器に、4人もの一流の妓女が次々殺された。友人の陳彩娘の身を案じる九郎らだが、火の粉は思わぬ方向に…

 「蚕眠棚」で登場し、サブレギュラーとなっていた名妓・陳彩娘がクローズアップされるエピソード。
 正月の縁起物の砂糖菓子・膠牙糖を凶器としたユニークな(?)連続殺人の行方と並行して、彼女との関係が、李千里を思わぬ窮地に追い込んでいくのが面白い。

 李千里の馴染みと思われていた彩娘ですが、実は二人は親子の疑いが。密かに彩娘を想ってた九郎にとっては、二重の意味で真相が気になる事件でありますが、千里はそんな九郎の心も利用して、意外な形で窮地を脱することになります。

 ラストで描かれる九郎の心情も面白く、背景となる当時の遊里の華やかな姿も印象に残る、個人的に好きなエピソードです。


「昇竜門」

 次々と重臣の粛正に走る皇帝。九郎は突蕨撃退の軍を送ろうとする李千里の依頼で、皇帝に瑞兆の龍を見せようとするが。

 突厥討伐のために、北方に大軍を送らんとする李千里。しかし皇帝の愛人となって専横極める謝康生に妨害されることを恐れた千里は、皇帝に瑞兆を見せつけて、その隙に自分の献策を認めさせようと、九郎に「竜」を皇帝に見せるよう命じます。
 なんとか「竜」を見せることに成功した九郎ですが、事態はいよいよ悪化し、迫る謝康生。そこから逃れるためには、再度「竜」を出現させなければならないのですが…

 最終話は風雲急を告げる展開、いよいよ九郎や千里への敵意を露わにする謝康生に対し、九郎が最後の賭けに出ることとなります。
 その手段である「竜」出現のトリックは、個人的には今ひとつ感心できない内容なのですが、しかしそこから史実にリンクして転がっていく物語は実に面白い。

 そしてクライマックスはなんといっても、九郎が探偵役を務める真の理由が描かれる点でしょう。身体上の劣等感から来る鬱屈の発散のみとばかり思っていた彼の行為の陰に、ここまでの覚悟があったのか…とただただ圧倒されます。
 そして、結末にその後の九郎と香連の姿が簡潔に述べられるという構成も実に心憎い。あの人物の前身だったのか! という驚きと、彼の孤独な戦いは無駄ではなかったのだ、という感動が入り交じって胸に迫ります。


 続編は見たいような、描かれない方が良いような…いずれにせよ、見事な結末と申せましょう。

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双子幻綺行―洛陽城推理譚

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