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2012.10.27

「双子幻綺行 洛陽城推理譚」(その一) 事件に浮かぶ人の世の美と醜

 大唐帝国初頭の7世紀末、則天武后が君臨する洛陽城。宦官として献上された怜悧な美少年・馮九郎と、天真爛漫な双子の妹・香連は、後見人の李千里から宮中の情報収集を命じられる。そんな中、洛陽城で次々と起こる怪事件。事件の謎を鮮やかに解き明かしていく九郎だが、その背後には…

 中国歴史ミステリの名手・森福都が15年ほど前に発表した連作短編集であります。
 舞台となるのは、則天武后が自らの子を廃位し、聖神皇帝と名乗った「周」の時代。副題に「洛陽城推理譚」とあるように、彼女が君臨する洛陽城を中心として、様々な怪事件を美貌の双子が解決していくこととなります。

 その双子とは、零落したかつての豪族・馮氏に生まれ、宦官として召し出された美少年・九郎と、彼を慕って半ば強引に女官として宮中に入った妹・香連。
 外面は柔和で礼儀正しい一方で、その実は狷介なオレ様的性格、しかし頭脳の冴えは天下一品の九郎と、その彼が唯一心を許す相手であり、天真爛漫で好奇心旺盛な香連のコンビが、探偵役という趣向であります。

 以下、全七編を一話ずつ紹介していきましょう。


「杜鵑花」

 城内の庭園の池畔で見つかった美人歌手の死体。さらに時を同じくして皇帝の寵愛を受ける兄弟が失踪、二つの事件の間には。

 記念すべき第一話は、九郎と香連、さらに彼らの後見人にして上司、そして九郎にとっては一種のライバルである李千里というレギュラーキャラの紹介を兼ねた導入編。
 しかしそれだけでなく、本作で描かれる事件の様は、本作全体のムードを紹介する形となっています。

 杜鵑花と異名を持つ躑躅の花びらに包まれるようにして見つかった美女の他殺体という、凄絶華麗な殺人事件。そしてそれと同時に展開する、則天武后の寵愛を一身に受けた(=権勢を恣にした)兄弟の行方不明事件。
 そこにあるのは人の世の美と醜であり――そしてそれはこの「周」という国家の姿の象徴でもあります。

 単純ながら理に適った事件の真相も面白いのですが、ラストに描かれる、九郎が事件の謎に挑む理由にも唸らされます。


「蚕眠棚」

 蕩児ばかりを狙った連続誘拐魔「人繭魔鬼」。囮となった九郎に化けて探索に首を突っ込んだ香連だが、彼女の方が誘拐されてしまい…

 今回は宮中からちょっと離れて、爛熟の極みにあった洛陽の様を描くエピソード。街で乱痴気騒ぎにふける名家の子弟ばかりを誘拐し、まるで繭のように布でグルグル巻きにして捕まえておくという奇怪な賊「人繭魔鬼」の謎を双子が追うことになります。

 李千里の命で蕩児に化けて遊興に耽ってみせる九郎ですが、好奇心から彼が寝ている昼間の間に双子なのを利用して遊里に出入りする香連の方が誘拐されて…という展開は、自分の心中を滅多に見せない九郎が大慌てするという展開も含めてお約束ではありますが、その際に犯人を誘き出すために彼が取った行動と、犯人の正体が白眉。

 本作は、事件そのものの謎だけでなく、そこに現れる人間心理の動きを描くことに力を入れた作品であることが、このエピソードから強く伝わってきます。


「氷麒麟」

 氷の彫刻を得意にする一方、その振る舞いで周囲の恨みを買っていた男が殺された。しかし犯人と目された男にはアリバイが。

 このエピソードからサブレギュラーの少年宦官・蔡寿昌が登場。九郎を「お兄様」と慕う一方で色々と裏を持つ彼は、「宦官」という存在に我々が持つ負のイメージの象徴のようなキャラであります。

 事件の方は、氷で龍や鳳凰の彫刻を巧みに彫り上げる廷臣が、新作の制作中に殺害されたというもの。本業の方ではかなり悪辣なやり方をしていた彼に恨みを抱く男がすぐに容疑者として挙げられたのですが、しかし殺された際に氷像の制作中であったことが、アリバイ証明となってしまいます。

 正直なところ、トリックはかなりアンフェアに感じられるのですが、人間の持つ虚栄心が単純な事件を難解なものとさせるのは、いかにも本作らしい趣向ではあります。

 以下、続きます。

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双子幻綺行―洛陽城推理譚

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