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2012.10.07

「羽州ものがたり」 人の世の悲しみと希望の間に

 9世紀後半、出羽国に暮らす少女・アキとその友達の少年・カラスは、都から来た少年・小野春名と出会う。なかなか出羽に馴染めない春名だが、ある日、川でアキとカラスに命を救われ、心を開いていく。やがて都に帰る春名。しかしその後出羽では苛政に反抗して乱が勃発。三人は敵味方に分かれることに…

 児童文学では、思いもよらぬところで思いもよらぬ題材の作品に出会うことが少なからずあります。新作児童文学シリーズである「カドカワ銀のさじ」に収められた本作「羽州ものがたり」もその一つ。
 なんと本作の題材は、平安時代の地方反乱である元慶の乱。小説の題材にされるのはきわめて珍しいこの乱を、本作は三人の少年少女の目から描きます。

 本作の主人公となるのは、出羽国の村長の娘・ムメ。家事に追われながらも、生まれつき片目のない鷹のアキを育てる活発な彼女は、村外れでただ一人獣のような暮らしを送る少年・カラスと仲良く、出羽の山野を駆けめぐる毎日。そんなある日、彼女は都からやって来た小野春風とその子・春名に出会います。かつて出羽で育った春風は、都で官職を失ったのを期に、家族を連れて出羽を訪れたのであります。

 しかし父と違い、春名の方は全く馴染めない異境に、時に反発し、時に塞ぎ込む毎日。しかしそんな中、増水した川で溺れかけた春名は、命懸けで自分を助けてくれたムメとカラスに心を開き、やがて出羽を見る目も変わっていくことに。
 そして、春風に気に入られた二人は、親しく小野家に出入りするようになり、ムメは都の文化を学び、カラスは春名と武術の腕を磨いていくのですが…やがて春風が都に帰るのに従い、春名も二人との別れを惜しみながらも、出羽を去ることになります。

 それから四年後、時の国司の苛政に凶作が加わり、もはやギリギリまでに追い詰められた出羽の人々は、ついに蜂起して秋田城を占拠。この戦いの中で、ムメは敵味方を問わず犠牲となる者に心を痛め、そしてカラスは盗賊あがりの男・ジオの部下となって戦い…そして春名は、春風が鎮守府将軍としてこの乱を鎮めることを命じられたことから、ムメやカラスとは敵の立場に――


 本作において描かれるのは、人と人がわかりあう事の難しさであり、信じた者に裏切られることの悲しみであり、そしていつまでも変わらないと思っていたものが変わっていくことへの寂しさであり…言い換えれば、生きていくことの難しさにほかなりません。
 もちろんこれは、何も平安時代ではなくとも、今に生きる我々も共通に抱えた問題であることは言うまでもありません。
 本作は、そんな現代にも共通するものを、その時代特有の事件を通すことにより、見事に浮き彫りにしてみせます。

 特に私の印象に残ったのは、カラスのキャラクターであります。幼い頃からただ一人で生き抜き、(ムメや春名以外の)他者との関わりをほとんど持たぬまま成長したカラス。
 平時であれば、それなりに平穏に暮らしたであろう彼は、戦いの中で己の才をジオに評価され、彼の命じるままに手を汚していくこととなります。それが己の心身を傷つけていくこととなっても…

 自分自身で何が正しいか決めることができなかったゆえに、自分の代わりに考えてくれる――たとえそれが自分自身のためにならぬ結果であっても――誰かに全てを委ねてしまうカラス。彼の姿は、それがあまりにも痛々しいがゆえに、そして何よりも、現代にも彼と同じような立場の者が数多くいると感じられるだけに、痛切に心に刺さるのです。


 しかし――本作で描かれるのは、人の世の暗い部分のみではありません。確かにままならぬ世の中であっても、人は人とわかりあうことができる。少なくとも、そう努めることにより、悲しみを減らすことができる…
 それは綺麗事に聞こえるかもしれません。しかし本作で描かれる三人の姿は、そんな希望が決して空虚なものでないことを、我々に示してくれます。

 この元慶の乱が起きたのは元慶2年(878年)、あのアテルイの乱から約70年後のことですが、まったく正反対と言ってよい結末を迎えています。
 それはその70年の間に、朝廷の地方支配の仕組みが弱体化したという点はもちろん存在しますが、それだけではなく、春風のように、その土地の民の主張に理解を示し、寛政により互いの想いを重ねた者がいたから、というのは間違いないでしょう。

 人の世の現実の難しさを語りながらも、そこに決して絵空事でない、人と人はわかりあえるという希望を重ねてみせた本作。今だからこそ、多くの人に読んでいただきたい作品です。

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