« 「笑傲江湖」 第34集「五嶽合併」 | トップページ | 「猫絵十兵衛 御伽草紙」第6巻 猫かわいがりしない現実の描写 »

2012.10.21

「乱世山城国伝」 乱世を動かす人々の想い

 応仁の乱が終わっても続く戦乱に荒廃した山城国。南山城の狛城を陥とした斉藤彦次郎の陣に加わっていた青年・九郎は、ある事件をきっかけに陣を離れ、山に篭もった農民たちの中に加わる。やがて九郎は、山城国から軍勢を追い出し、国人による統治を目指す狛秀と行動を共にすることになるが…

 昨年惜しくも亡くなった後藤竜二が、室町時代の山城国一揆を題材に描いた歴史小説であります。

 物語は、応仁の乱が終わったばかりの山城国狛城から始まります。
 乱は一応終結したとはいえ、幕府は有名無実化し、各地では戦乱がうち続く中、下級公家の身分を捨て、足軽大将としてのし上がってきた斉藤彦次郎が狛城を襲撃、主人公の九郎もこの中に加わります。

 しかし過去のある体験がもとで人を殺せなくなった九郎は、狛山城守秀と娘の織姫を見逃し、その時にもらった金塊が元で、仲間たちからリンチを受けることとなります。
 死んだようになって川を流された九郎を拾ったのは、戦場を往来する尼僧たち。九郎は、なりゆきから彼女たちと共に彦次郎の支配を嫌って山に篭もった農民たちに合流するのでした。

 その体術を活かして農民たちに協力する九郎は、やがて狛秀や織姫と再会。しかし、戦いに倦み、国人の団結で平和を得ようとする狛秀に対し、あくまでも戦って領地を回復しようとする織姫、対照的な父子の姿に、九郎は複雑な想いを抱きます。

 九郎、狛秀、織姫、さらには彦次郎など様々な人々の思惑が絡み合う中、なおも続く戦乱。しかしその中でもそれぞれの利害に拘る人々は団結することなく、細川政元に操られるように畠山政長と畠山義就は山城国で対峙するのですが――


 戦国時代前夜と言うべき時代に、守護大名らを追放し、以後八年間に渡り、農民を含む国人たちが統治を行った山城国一揆。
 歴史の教科書ではお馴染みの出来事ですが、本作においては、それを大名・足軽・農民・馬借・芸能者・僧侶・忍び等々、様々な登場人物の目から描き出します。

 上の紹介では、九郎を中心に物語を整理しましたが、確かに彼は様々な場面で活躍を見せるものの、しかしそれはその場その場に留まるものであり、大きな歴史の流れに影響を与えるものではありません。むしろ彼自身は、生きる目的を持たずに流されていく傍観者的存在であります。
 いや、それは単に九郎一人ではありません。本作の登場人物ほとんど全てが、歴史の巨大なうねりに流されて、泥濘のような戦いの中で、もがくばかりであります。
(そして同時に、本作には完全な悪役が登場しません。斉藤彦次郎や彼の上役ともいえる古市澄胤のように、強大な兵力を持ち、時に非道を行う人物も、それぞれに迷い、弱さを抱える姿が描かれるのです)

 本作で描かれる山城国一揆は、決して美しい理想だけの中から生まれたものではありません。いやむしろ、国人たちは共通の敵を持ちながらも直前まで己自身の利害に固執し、争いを続け、まとまりに欠ける状況でありました。
 そんな混乱の中で発生したこの国一揆は、結果だけ見れば――結局、わずか8年で崩壊し、その後ほどなくして戦国時代が到来したことを思えば――一瞬の歴史のきまぐれから生まれた、一過性のものにすら見えます。

 しかしそれは、決して(本作に登場する)人間が無力であるということを意味しません。
 確かに、個々人の力では一揆は起こせなかった。しかし、理想を持った人間が存在し、彼が地道な努力を続けた時に、歴史が動くことがある。
 たとえそれが一過性のものに見えたとしても、たとえ同一の状況・結果ではないにしても、後の世でも同じような理想を持つ人々の力で歴史を動かすことはできるのだと、本作は教えてくれるのです。


 巨大な歴史の流れの前で、人に何が出来るのか。それは歴史小説に課せられた一つの巨大な命題のように感じられます。
 本作はそれに一つの、いや、様々な形で答えを出してみせたと言えるでしょう。そう、答えは人の数だけあるのですから…(結末で九郎が選んだ生き方の美しさよ!)。

 月並みな言い方で恐縮ではありますが、今のような時代に出会えたことを感謝したい作品であります。

「乱世山城国伝」(後藤竜二 新日本出版社) Amazon

|

« 「笑傲江湖」 第34集「五嶽合併」 | トップページ | 「猫絵十兵衛 御伽草紙」第6巻 猫かわいがりしない現実の描写 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/55938077

この記事へのトラックバック一覧です: 「乱世山城国伝」 乱世を動かす人々の想い:

« 「笑傲江湖」 第34集「五嶽合併」 | トップページ | 「猫絵十兵衛 御伽草紙」第6巻 猫かわいがりしない現実の描写 »