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2012.10.04

「箱根たんでむ 駕篭かきゼンワビ疾駆帖」 意外な駕篭かき時代小説!?

 箱根一の駕籠かきを目指す漸吉と侘助は、顔を合わせれば喧嘩ばかりの凸凹コンビ。ある日、ライバルの辰組の駕籠かきと張り合った二人は、箱根一の座を賭けて勝負することになったが、息の合わない二人は相手に引き離されていくばかり。しかしその時、客の女性が意外な提案を!?

 どんなに面白い時代ものに出会ったとしても、伝奇ではないという理由で紹介できないというのは本末転倒。ここは一つ番外という形でも紹介を…ということで、本日紹介するのは桑原水菜の「箱根たんでむ」であります。

 と、ここで(私同様に)驚いた方もいるでしょう。というのも本作の作者は集英社コバルト文庫などで活躍してきた桑原水菜。
 確かに、作者は戦国武将たちの怨霊が現代に跋扈する「炎の蜃気楼」シリーズを代表作とする、時代もの(というか歴史もの)とは無縁ではない作家であります(「風雲縛魔伝」という時代伝奇シリーズも発表しています)。

 しかしその作者が、一般レーベルで文庫書き下ろし時代小説を、それもタイトルだけではちょっと内容がわからない作品を発表したのですから、これはやはり驚きます…が、これがまた実に面白い作品なのであります。

 本作の主人公、漸吉と侘助は、小田原から箱根までの箱根路で旅人を乗せる駕籠かき。侘助を前棒(文字通り、駕籠の棒の前を担ぐ担当)、漸吉を後棒とした、ワビゼンコンビで箱根一の早駕籠を目指しているのですが…
 この二人、どうにも相性が悪い、というより正反対の性格と外見なのであります。
 漸吉は獅子頭のようなボサボサ頭で、大雑把で脳天気な性格。侘助の方はきっちりと身なりを整え、性格も几帳面で慎重、時に疑い深いほど。

 そんな二人が客を運んでもうまく行くはずもなく、前棒後棒ちぐはぐで乗る客の方もたまったものではありません。
 そんな問題児コンビが、ある日、箱根一をかけてライバルと競争することになって…というのが第1話「箱根たんでむ」のあらすじです。

 やはりぎくしゃくしてうまくいかない二人が、あるアドバイスで見違えるように…という展開はある意味お約束ですが、しかし駕籠かきという珍しい題材で見てみるとそれも実に爽快。
 あれ、サブタイトルではゼンワビなのに、駕籠の前後はワビゼン…と思っていたら、という構成も巧みであります(どちらの名前が前か、と言われると別のことを連想したりもしますが忘れましょう)。

 そして本作はそれ以降もこの江戸時代の駕籠かき、箱根路の風俗といった、題材に根ざした物語を展開していきます。
 第2話「お玉の幽霊」では関所破り(というより関所手形にまつわるアレコレ)、第3話「関所の女閻魔」では女改め、第4話「道中記詐欺にご用心」では道中記と、それぞれ時代ものではそこまで珍しくはないものの、物語の主題となるのはやはり珍しい題材ばかり(そもそも、駕籠かきが主役という時点で、非常に珍しい作品ですが…)。

 本作は、しかしその珍しさを珍しさだけで終わらせることなく、おそらくは本作の想定読者層と年齢が近いゼンワビの視線を通じて描くことで――そして、箱根路を旅する人々、そこで働く人々の想いを絡めることで、我々の時代と遠くてもどこか近い江戸時代の姿を生き生きと描き出してくれるのです。

 正直なところ、タイトルを拝見した時点では、ここまできっちりと「時代小説」してくれるとは思わなかっただけに、これは嬉しい驚き。最初から最後まで、一気に楽しく読ませていただきました(この辺りは、全く淀みなく進む作者の筆致の巧みさも大きいかと思います)。


 この作品を一冊で終わらせるのはもったいない。箱根路を駆ける「相棒」の青春模様として、ユニークな題材の時代小説として…続編にも期待したいところであります。

「箱根たんでむ 駕篭かきゼンワビ疾駆帖」(桑原水菜 集英社文庫) Amazon
箱根たんでむ 駕籠かきゼンワビ疾駆帖 (集英社文庫)

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