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2012.10.19

「鬼舞 見習い陰陽師と悪鬼の暗躍」 緩急自在のドラマ、そして畳

 御所を騒がせた騒動は収まったものの、道冬・吉昌・綱それぞれの心には傷跡が残る。そんな中、鬼たちに利用された右近少将が、口封じに命を狙われていると察した道冬たちは、少将が宇治の別邸に避難するのに同行する。しかし鬼の魔手は宇治にも迫ろうとしていた。恐るべき鬼の力の前に道冬たちは…

 快調に巻を重ねてきた「鬼舞」シリーズもこれで7巻目。前々巻から道冬の周囲を騒がせてきた邪香を巡る物語も、ここでひとまずの決着となります。

 都を騒がす謎の鬼たちの手により中宮の周りに持ち込まれた人を狂わせる香。思わぬ成り行きから御所に持ち込まれたその香によりバイオハザード状態となった御所での騒動を辛うじて収めた道冬たちですが――
 しかしその中で、吉昌は香で狂わされた兄・吉平と激突して完敗。綱は鬼の一人・茨木に敗れ、そして道冬は忠僕の行近の思わぬ素顔を知ることになってしまいます。

 そんな前作の結末を受けての本作では、少年たちのその後の姿が描かれるのですが…さぞや重たい展開になるかと思いきや、それを良い意味で裏切ってくれます。

 何しろ周囲が、少年たちが悩んでいることを斟酌するような連中ではありません。
 普段のクールな態度はどこへやら、自分が傷つけてしまった弟に対して異常な溺愛っぷりを見せる吉平…はともかくとして、前作で館からの束縛を離れた源融大臣や、道冬に熱視線を送るトノサマガエルは相変わらずマイペースに物語を引っ掻き回してくれます。

 しかしそれ以上に今回(も)大変なのは、畳――もはや完全にヒロイン格となった彼女(?)は、道冬を巡る新たなライバルの登場に大暴走。これまでも泣きながら家を飛び出していくというくらいはありましたが、今回は何とオフィーリアに…ってもはや誰得な暴走ぶり。いや本当に面白いんですが(以前から思っていましたが、浦沢義雄脚本か!)。

 と、脇は脇で大暴れなのですが、しかしもちろんギャグだけでは終わらないのが本作の、本シリーズの恐ろしいところであります。
 行近の正体を知ってしまった道冬の心の揺れ、どうしても叶わぬ兄へのコンプレックスに必死に立ち向かう吉昌(…に対する晴明の言葉がまたいいんですが)と、少年たちの心の内の描写。
 徐々に明らかになっていく道冬の秘密と、それと直結しているらしい道冬の父と晴明の因縁、そして道冬の父の死の真相。

 これらシリアスなパートも同時並行して、いや、ギャグから突然一転して(そしてまた逆も同様に)描かれるドラマの緩急の付け方は見事の一言で、読んでいていいように作者に操られた気分であります。前作があまりに盛り上がり過ぎただけにちょっと心配しておりましたが、(前作ほどではないにせよ)やはり完成度の高い本作であります。


 その他、何やら今後のキーパーソンとなりそうな女性キャラも登場し、ああ良かった、異常に男性密度が高かったこの作品にも活躍しそうな女性キャラが…というのはさておき、この先も大いに振り回してくれることを期待しても裏切られることはない作品です。

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