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2012.11.08

「腕 駿河城御前試合」第3巻 予断を許さない世界へ

 つい先日「戦国武将列伝」誌での連載が終了した森秀樹の「腕 駿河城御前試合」の第3巻であります。言うまでもなく南條範夫の名作の漫画化ではありますが、この巻では原作を離れた独自の物語を展開していくこととなります。

 寛永6年に駿河城の徳川忠長の御前で行われた11番の真剣勝負を描く「駿河城御前試合」。その漫画化である本作は、これまで6つの試合が描かれてきました。
 その試合順や、エピソードによっては出場剣士が変わったものもありましたが、概ね原作通りに展開されてきた本作。しかしこの第3巻に収められた3試合のうち、2つは完全に本作オリジナルのものであり、残る1試合も、原作とは大きく異なる展開を迎えることとなります。

 そのオリジナルのエピソードとは、「鼻」「女剣士磯田きぬ」の両編。前者は第7試合の禅智内供 対 戸田伝衛門、後者は多情丸 対 中村進吾を描いたものですが――原作をご覧になった方は一目瞭然の通り、この2試合に出場した剣士は、原作に登場しないキャラクターであります。
 そしてこの両編でそれぞれ主役となる禅智内供と多情丸は、それぞれ「今昔物語集」をベースとした芥川龍之介の短編小説の登場人物が元となっています。

 「鼻」の禅智内供は、人並み外れて長い鼻に強いコンプレックスを持つ人物。親の顔も知らぬ捨て子として育ち、せめて心清く生きようと願っていた彼は、しかし戦乱の中で激しく歪み、無頼の徒に堕ちていくこととなります。
 一方、「女剣士磯田きぬ」の多情丸もまた無頼の男。かつて腹を減らして盗みに入った村で袋だたきにあった上、片足を斬り落とされたことを恨み、徒党を組んで村を襲い住民を皆殺しにせんと企む男であります。

 実はこの二人の無頼漢の人生に絡むのが、第6試合で座波間左衛門と戦った女剣士・磯田きぬ。
 間左衛門によって顔に醜い傷を負わされ、家族も含めた人生を滅茶苦茶にされて放浪を続けながらも清い心を失わない彼女の存在は、二人の無頼漢の心にも影響を与えることになるのですが…

 正直なところ、ここでなぜ今昔、なぜ芥川、という印象は強くあります(私の記憶が正しければ、「鼻」は以前作者が描いた別の作品のセルフリメイクだったように思うのですが…)。
 さらにまた、二話に渡って磯田きぬがヒロイン役を務めるのにもなんとなく座りが悪いものがあり(もっとも、この辺りについては最終巻である第4巻の感想で触れることがあるかと思います)、この2編をどう受け止めるべきかは、未だに悩ましいところであります。


 こちらに比べると、かなり原作に近い形となっているのは原作の「破幻の秘太刀」を元とした「石切り大四郎」。
 その刀で石を斬ったことから「石切り」の異名を持つ豪傑・成瀬大四郎と、美貌の邪剣士・笹島志摩介が試合を行う点は原作でも本作でも共通であり、剣と家庭と、大四郎が心の内に抱えた鬱屈もまた、原作を踏まえたものであります。

 しかし仰天させられるのは、御前試合で行われる二人の戦いの姿、試合のスタイルであります。
 そんな馬鹿なと思いつつも、この御前試合であれば…と妙に納得させられるその試合の様とその結末は、まさに切れ味抜群、というほかありません。


 後半戦に入り、全く予断を許さない世界に踏み込んできた本作。
 残るは2試合、果たしてどこから何が飛び出してくるか――そして結末に何が待っているのか、最後まで気が抜けません。

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