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2012.11.20

「風の王国 4 東日流府の台頭」 快進撃と滅亡の予感と

 契丹の侵略を前にしながら、派閥争いに明け暮れる渤海。明秀、勇魚らは、渤海から表向き離れ、遼東に東日流府をうち立てる。そんな中、須哩奴夷靺鞨救援に明秀が向かった間に、無辜の民を多数殺害して出奔した建部清瀬麻呂が帰ってきた。勇魚はかつての友を信じ、受け入れるのだが…

 全10巻が予定されている大河歴史ロマン「風の王国」、そろそろ折り返し地点も近い第4巻のサブタイトルは「東日流府の台頭」であります。

 契丹の侵略が迫る中、渤海から援兵の要請を受けて海を渡った東日流の義勇兵たち。しかし、渤海の中で真に危機感を持つ者はごくわずか、大部分の貴族は安逸をむさぼり、いやそれどころか契丹と密かに結ぶ者までいる始末――
 そこで明秀、勇魚ら東日流のリーダーたちと、渤海の心ある者たちは、ある奇策を立てることとなります。それは、緊張区域である遼東に、東日流の城を――すなわち、東日流府を樹立すること。
 秘密兵器・雷公(その正体は一種の投擲弾)と、東日流の精兵たちの力で遼東を奪った明秀たちは東日流府の樹立を宣言、ここに(少なくとも表向きは)渤海とも契丹とも異なる東日流領が生まれることになります。

 この第4巻で主に描かれるのは、この東日流府を巡る攻防戦の数々です。寡兵で優勢な敵に挑むというのは、これは戦記ものの定番ではありますが、しかし異国にまで乗り込んでいって活躍する東日流勢の剽悍ぶりはやはり読んでいて胸躍るものがあります。
 特に明秀が、須哩奴夷靺鞨(かつてヒロインの一人・芳蘭を拉したこともある遊牧民族)へも魔手を伸ばす契丹に対し、単身彼らの居住地に向かい、轡を並べて戦う姿は、まさに主人公の面目躍如たるもの。
 正直なところ、物語が複雑化し、登場人物が増えるにつれて一巻あたりの出番は減りつつある明秀ではありますが、しかしこのくだりで見せる好漢ぶりは、実に痛快であります。

 そしてまた(これは日本国内の話ですが)、これまでも随所でいい味を出していた東日流国王が、今回はとんでもない「真実」を明らかにしてくれるなど――この辺りはちょっとやりすぎの感もありますが、しかし中央と地方の視点が一瞬にしてひっくり返るのはやはり痛快――東日流勢が内外で大活躍を見せてくれるのは嬉しいところでしょう。


 しかしもちろん、彼らの活躍のみでもって渤海が守れるわけではなく、そして契丹の力も、もとより恐るべきものがあります。
 さらに、前の巻に収録された予告でこちらの気持ちをズンと暗くさせてくれた建部清瀬麻呂――かつては明秀、勇魚の同志として活躍しながら、ちょっとした運命の行き違いから凶盗同然に身を堕とした彼が、更に堕ちた姿で現れ、勇魚たちを苦しめることとなります。
 そして清瀬麻呂の堕落行に手を貸した明秀の宿敵・耶律突欲の暗躍も続き、東日流府の先行きも、決して明るいことばかりではないのですが――

 しかし本作で感心させられるのは、こうした契丹サイドの人間たちを単なる敵・単なる悪役として描くのではなく、彼らは彼らなりに血の通った存在として描かれている点であります。
 既に魂が暗黒に染まったかのような清瀬麻呂が、そこに至るまで辿った悩みと迷いの生々しさは、変貌を遂げた後の彼を単なる外道として片付けることを拒むものであり――
 そして何よりも、一貫して明秀と敵対し続ける妖人・耶律突欲もまた、一人の人間としての悩みと弱さを抱えていることが示されます。

 王族として生まれながらも、王たる者として生きることを許されず、戦いの中に身を置くという点では、突欲も明秀も等しい存在。
 ついに渤海も滅亡寸前に迫り、いよいよ混沌たる中原の状勢の中で、そんな彼らの生き様がどのように交錯していくのか…この巻のエピローグ、そして次巻予告に心乱されつつも、次なる展開を心待ちにしているところです。

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