「ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvsゾンビ」 名探偵、ゾンビ禍に挑む
1854年、流れ星がロンドン上空を横切った。時は流れ1898年、ロンドンで動く死体による奇怪な事件が発生。その捜査に当たろうとしたホームズは、英国諜報部により妨害される。ロンドンの地下に眠る秘密に迫るホームズだが、時既に遅く、最悪の敵により、ロンドンにゾンビの大群が解き放たれた…!
小説や漫画、映像とジャンルを問わず、いまだにパロディ/パスティーシュが作られ続けるシャーロック・ホームズ。その中でも最も奇妙なものの一つであろう作品が、邦訳されました。
それが本作、「シャーロック・ホームズvsゾンビ」という副題が何より雄弁に内容を物語るアメリカン・コミックスであります。
ファンであればよくご存じかと思いますが、ホームズがクロスオーバー的に様々な相手と対決するのは、パスティーシュなどでは定番の展開。ルパン、切り裂きジャック、ドラキュラ、クロウリー、果ては火星人まで、虚実入り乱れて様々な敵を向こうに回してきたホームズですが、しかしさすがにゾンビと対決というのは珍しいでしょう。
ここで登場するゾンビは、言ってみればロメロ流。動きは遅いものの、力は強く、人の肉を好んで襲いかかり、犠牲者も同様の生ける死者と化す――あのタイプのゾンビであります。
そんなゾンビの群れとホームズが対決するというのは、一歩間違えると荒唐無稽な色物になりかねませんが、本作に惚れ込んで出版社に働きかけ、自ら翻訳を手がけたのが、あの日本有数のシャーロキアンたる北原尚彦と書けば、その本気具合がわかるでしょう。
何故ゾンビの群れがヴィクトリア朝のロンドンに出現することとなったのか、その場合のイギリスという国家への影響は、そしてその状況下でホームズに何ができるのか?
本作はあくまでもシリアスかつリアルに(ところどころ、明らかにオーバーテクノロジーが登場するのはご愛敬)状況を積み重ねて、巨大なフィクション世界を構築していくのであります。
ちなみに本作は冒頭で述べたとおりコミックですが、絵柄的にも描写的にも、かなりよくできているという印象があります。
個人的な印象としてワトスンが少々おじさんぽいことを除けば、ホームズをはじめとするキャラクターデザインはまずイメージ通り。 ビジュアルの方も、ロンドン地下に埋められたもう一つの街など、ゾクゾクするようなシチュエーションをムードたっぷりに描き出しています。
そんなわけで非常に楽しい作品ではあるのですが、一点だけ難を言えば、ほぼ無数に発生するゾンビ禍の前では、さすがのホームズの頭脳も、働き場所が少々少ないのが残念なところではあります。
(肉体的には、グルカナイフとバリツでファイターというよりクラッシャーな暴れっぷりを見せてくれるのですが)
それでもホームズファンとして嬉しくなってしまうのは、大英帝国始まって以来の非常事態においても決して冷静さと闘志を失わないホームズの、そして人間としてこの事態に恐れを抱きつつもホームズの友人として戦い抜くことを決意するワトスンの、二人のキャラクターの在り方であります。
特にワトスンの描写は、それでこそ! と膝を打ちたくなってしまうもので、原典のファンも納得なのではないでしょうか。
そんなわけでホームズ好き、ホラー好き、伝奇好きにはたまらない本作ですが、続編として「vsジキル/ハイド」「vsドラキュラ」があるとのこと。本作のクオリティからすれば、続編の方も期待できるというもの。
続編もぜひ日本で刊行していただきたいものです。
ちなみに原書の表紙を見た時は、「マーベル・ゾンビーズ」みたいな話なのかと怯えましたが、大丈夫で一安心。
「ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvsゾンビ」(イアン・エジントン&デイビッド・ファブリ 小学館集英社プロダクションShoPro Books) Amazon

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