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2012.12.08

「宿神」第1巻 義清/西行が見たものは

 北面の武士・佐藤義清は、幼い頃から奇怪な影のような存在を見ることがあった。友人の平清盛と、破落戸に襲われた呪師・申と妹の鰍を助けた義清は、申が唱えた呪から「それ」影が出現するのを目撃する。一年後、鳥羽上皇の中宮・璋子に心を奪われた義清だが、璋子もまた「それ」を見る者だった…

 朝日新聞等で長期連載されてきた夢枕獏の「宿神」が、全4巻構成で単行本化されました。平安時代末期を舞台に、佐藤義清=西行を主人公とする大河伝奇であります。

 物語の始まりは保延元年(1135)、北面の武士である義清と平清盛が、市で見事な軽業と幻術を見せる小男・申とその妹の鰍と出会う場面から始まります。

 放免(検非違使の手下)に絡まれていた二人を助けた義清と清盛は、その後、逆恨みした放免の闇討ちに遭うところを申の報せで難を逃れるのですが、今度は鰍が破落戸たちに捕らわれることに。

 彼女を助けに向かった三人ですが、申は鰍が捕らわれた小屋を前にして奇妙な呪を唱え、それに喚ばれたように、周囲には奇怪な気配が――
 清盛はおろか、呪を唱えた申にも感じられない、見えないらしいその気配。「それ」こそは、実は義清が幼い頃から幾度なく見ていたもの――闇が凝ったような、影のような、正体不明の存在だったのです。

 そしてその騒動から一年後、主である徳大寺実能の屋敷で、義清は一人の美しい女性と出会うこととなります。その女性こそは実能の妹にして鳥羽上皇の中宮・待賢門院璋子――そして、彼と同じく「それ」を見ることができる者だったのでありました。
 璋子に魅せられた義清は、やがて運命的な成り行きの末に、ついに彼女と結ばれるのですが…


 今年のNHK大河ドラマのメインキャラクターの一人となっていることもあり、西行が出家前は佐藤義清という北面の武士であったこと、そしてその出家には待賢門院璋子との恋が絡んでいた(という説がある)ことは、ご存じの方も多いのではないかと思います。
(ちなみに本作自体、大河ドラマに合わせたようにも思いますが、執筆開始自体は2006年とかなり以前であります。もちろん、刊行時期への影響は否めませんが)

 この第1巻では、その義清の青春時代が、丹念に描かれることとなります。
 本作では女と見紛う美形であり、馬術、蹴鞠、そして何よりも和歌の道に優れた青年として描かれる義清。しかし彼は同時に、うちに激しいものを秘めた人間として描かれ、その表れこそが、和歌であると描かれます。

 その彼が目にする「それ」は何ものなのか、そして何故彼がそれを目にするのか…それは現時点ではわかりませんが、おそらくはそれこそが本作のタイトルである「宿神」なのではありますまいか。
 「宿神」とは、一般には猿楽師など中世の芸能者に信仰された神であり、同時に摩多羅神、後戸の神と同一の存在とされる神であります。では摩多羅神とは何か、といえばこれがまた謎多き存在で、一説には宇宙の生命力を司るという説もあるほどで…

 正直なところ、本作がこの先どのような展開を辿るのか、どのような落としどころを迎えるのか、それは義清/西行と「それ」の関係と同様、この第1巻の時点では全くわかりません。
 しかし、貴族の時代から武士の時代へと大きく歴史が変転していく世界を、歌人にして僧侶という、ある意味そこから一歩踏み出した処に在った西行の目を通して本作は描いていくのでしょう。

 次の巻ではおそらく義清の出家が描かれるかと思いますが、そこに本作がどのような解釈を施すのか、楽しみにしたいと思います。


 なお、おそらくは義清と対になる存在として、遠藤盛遠の物語も並行して描かれるのがまた面白い。
 彼が後に何と呼ばれるようになるのかそれはまだ本文では触れられていませんが(しかし章題で完全にバレているのですが)、西行とは面白い因縁もある人物だけに、彼の運命もまた、気になるところであります。

「宿神」第1巻(夢枕獏 朝日新聞出版) Amazon
宿神 第一巻

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