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2012.12.11

「腕 駿河城御前試合」第4巻 十一番終了…そして彼らの腕が掴んだもの

 森秀樹による漫画版「駿河城御前試合」、「腕 駿河城御前試合」もこの第4巻でついに完結。残る二番勝負が描かれた後に残るものとは…

 駿河城御前試合として行われた十一番の勝負のうち、これまで本作では九番が描かれ、残るは第十番、第十一番の勝負。前巻でもその大半が原作を離れたオリジナルの剣士、オリジナルの展開でしたが、この二番勝負も、完全に本作オリジナルの内容となっております。

 まず第十番勝負は、仏法僧 対 あけび。方や、その姿を見た者は呪いによって死ぬと言われる伝説の怪剣士、そしてもう一方は何と山出しの遊女――と、おそらくは御前試合の中でも最も奇怪な組み合わせであります。

 関ヶ原でもその剛剣を振るったという仏法僧は、己の素顔はおろか、肌を全く見せぬ謎の存在。人前に姿を現す際には、体中に笹をまとったその姿を何と表すべきか…
 そして人々が仏法僧の伝説を恐れる中、その対戦相手に名乗りを上げたあけびは、まだ年若い遊女。オシラサマの伝説よろしく飼っていた馬・ハヤチネと深く心を通わせた彼女は、彼(?)とともに仏法僧との一戦に臨みます。

 この第十番勝負は、共にこの世に容れられぬ者同士の哀しい一戦――のはずなのですが、実際には箱の中から刃のみを突き出した仏法僧と、首の両側に二刀を横に突き出したハヤチネに跨がったあけびという、面白おかし過ぎるビジュアルとなってしまうのを何と評すべきか…
 しかしながら、決闘の後にその一端が明かされる仏法僧の正体、そしてその悲運に対してあの忠長が涙を見せる場面は圧巻。共に流され、押し込められた者同士の共感でありましょうか…


 そして最後の第十一番は鬼無朋之介 対 鬼無朋之介――決して名前の打ち間違いではなく、共に同じ人間として育てられた双子が数奇な運命の果てに対決する姿が描かれます。

 ことごとく人生にツキがない男・鬼無月之介がようやく授かった子は、忌まわれる双子――一度は片方の命を奪わんとした彼は、一人ではできぬことも二人であれば…と、一人二役ならぬ二人一役、同じ鬼無朋之介として二人を育て始めます。

 その父の意を汲み、同一人として生き始める二人の朋之介。二人いることを悟られぬために、片方が傷を負えば同じ場所に傷を付け、片方が足を折れば同じく足を折り…理不尽を理不尽と思わず、兄弟は仲睦まじく、一人の朋之介として暮らします。その兄が美しい娘と出会うまで。
 やがてその娘の存在を挟んで激しく対立した兄弟は、父の死を経て決定的な決別を果たし、そしてついに二人は御前試合で互いの運命に決着を付けることになるのですが…

 冒頭に述べた通り、この第十一番勝負はオリジナルではありますが、しかし設定、物語展開ともに、原作の一エピソードと言っても通じる内容。
 理不尽を理不尽と思わず生きてきた二人が、恋情に目覚めることにより――人としての自我を持つことにより決別し、カタストロフを迎えるという、哀しい残酷さは、まさに本作ならではのものではありますまいか。
 その二人の関係を、月の満ち欠けになぞらえて描く手法も巧みで、ラストを飾るに相応しい内容と言えるでしょう。


 そしてついに全十一番を終えた御前試合。原作とは異なり、その後に待つのは、むしろ寂寥感を漂わせる静かな結末であります。

 ある者は生き、ある者は死に…生き残った者も、その多くが悲しみに沈む十一番の真剣勝負、二十二の生き死にの果てに、作者は問いかけます。
 天はまこと天なりか――と。
 運命という理不尽に翻弄された彼ら剣士たちにかけるに、なるほどこの言葉は相応しくも感じられます。

 しかし本作は同時に、最後に本当に微かではあるものの、希望の姿をも描いていたと、私は感じます。
 天はまことの天でないかもしれない。しかしどれほどそれに翻弄されようと、人々の生は、その者自身のものであり――それは自身の腕で切り開くものなのですから。
 そしてそれは、刀によってのみ為されるものでないことは、言うまでもありません。

 時に原作に忠実に、時に原作から大胆に離れて「駿河城御前試合」を描き上げた本作。決して原作を蔑ろにせず、しかし原作に寄りかからないその精神は、最後の最後まで見事に貫かれたと、そう感じた次第です。

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