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2012.12.23

「黒猫DANCE」第3巻 未来の記憶を乗り越えて

 少年時代の沖田総司の姿を一風変わった視点から描く「黒猫DANCE」の最終巻、第3巻であります。惜しくも早期の終了となってしまった本作ですが、ある意外な人物との出会いが、総司を悩ませる「未来の記憶」の存在に、一つの答えを与えることになります。

 多摩を離れ、江戸の天然理心流道場で暮らすようになったそうじこと沖田惣次郎(総司)。兄貴分の島崎勝太(近藤勇)や土方歳三に可愛がられ、幼なじみの伊庭八郎(!)とも再会したそうじは、江戸でひたすら剣に打ち込むのですが――
 そんな彼を悩ませるのは、時折フラッシュバックする見知らぬ風景や人物。自分の見たこともない、おそらく未来のものでありながら、どこか懐かしい「未来の記憶」というべきそれが何であるのかわからぬまま、そうじはテンガロンハットのおかしな男・龍馬と出会い、再び冒険に巻き込まれることとなるのであります。

 正直なところ、新選組もの・幕末もので、若き日の新選組メンバーと坂本龍馬を絡ませるというのはもはや定番という感があり、この龍馬の登場自体を見れば、新味はありません。
 しかしながら、そこにこのそうじの「未来の記憶」が絡むことによって、龍馬の登場の意味が変わってきます。なぜならば、その「記憶」によれば、龍馬を斬ったのはほかならぬ沖田総司自身なのですから――

 「未来の記憶」の本来の(?)持ち主である総司=未来の総司は、新選組の人斬りとして近藤や土方の命じるままに敵対者を斬り――その果てに、少年時代に一種の友情を結んだ兄貴分である龍馬を斬った男として描かれます。
 龍馬の存在は、本作においては、日本の歴史のみならず、沖田総司自身の歴史においても重要な存在であり、そしてその死は、かつては自由闊達だった総司自身の心の死をも象徴するのであります。


 と、そんな未来が待ち受けているとも知らぬまま、成り行きから黒船に乗り込んだそうじと龍馬が出会うのは、あの吉田寅次郎(松陰)。そして彼こそは、もう一人の「未来の記憶」の持ち主!
 既にそうじよりも自覚的に「未来の記憶」の存在とその意味を知り、繰り返される己の運命を受け容れた上で、なおも己の信念を貫こうとする寅次郎に対し、そうじの選択は――というエピソードをもって、本作は幕を下ろすこととなります。

 この辺りの展開はいかにも急であり、本来であればもう少しじっくりと描かれる予定であったことは想像に難くありません。
 しかし、もう一人の「未来の記憶」の持ち主を登場させ、未来は変えられないことを知るその存在を通じて、本当に未来は不変なのか? という問いかけに一つの答えを与えるという構成はなかなかに美しく、(これもまた定番とはいえ)そこで出された答えもまた、頷けるものであります。


 わずか3巻という巻数は多いと言えるものではなく、これからまだまだ面白い題材がありそうなところで幕というのは――絵的に優れた部分も少なくなかっただけに――いかにも惜しいところではあります。
 しかしそれでもそれなりに満足することができたのは、やはり未来というものへの一つの希望を提示してくれたからにほかならないでしょう(そしてこの辺り、死を目前にした総司を描く書き下ろしの第零幕を合わせるとより一層響くものがあります)。

 そしてその物語の主人公として、永遠の青年のイメージのある総司を選んだ辺りはなかなかの慧眼であったのではないかと、今さらながらに感じた次第であります。


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黒猫DANCE(3)<完> (講談社コミックス月刊マガジン)

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