「天下 奥右筆秘帳」 骨肉の決戦、待ったなし!
江戸城大奥内で将軍家斉を襲ったものの失敗に終わった寛永寺。しかし新たに寛永寺の指揮権を奪った深園は、島津家を動かして更なる将軍暗殺の罠を仕掛ける。その動きを察知した併右衛門は、衛悟と瑞紀に探索を命じるが、衛悟らに恨みを持つ伊賀者の手が迫ろうとしていた…
物語序盤から登場していたキャラクターたちが脱落していき、いよいよクライマックスが近いことを予感させる「奥右筆秘帳」の最新巻「天下」が刊行されました(もうタイトルから、クライマックス感が漂うではありませんか!)
遅々として将軍家斉の排除が進まぬことに業を煮やし、京は東寺から来た深園に追い詰められ、大奥の法事での将軍襲撃という最後の賭けに挑み、散った寛永寺お山衆の束ね・覚禅。
さらに、寛永寺と結んで家斉を狙っていた松平定信もついにこの巻で脱落を(かなり格好悪く)宣言し、ついにこの国の権力を巡る争いも、役者が絞られてきた感があります。
家斉とその父である一橋治済、そして朝廷…三つの力のせめぎ合いがこれから描かれていくものと思われますが、その中で注目すべきは、やはり家斉と治済の対立でしょう。
実の父子でありながらも、将軍位を間に挟み、激しく対立する二人の姿には、正直なところ「何もそこまで…」とすら思わされますが、しかしそれこそが、上田作品がこれまで繰り返し描いてきた「権力の魔」の一つの究極の姿なのでしょう。
しかし本シリーズは、そんな骨肉の争いと対置して、一つの希望と言うべきものを描き出します。言うまでもなくそれは、ついに父と子(婿養子)となった主人公二人――併右衛門と衛悟の存在であります。
最初は一種打算的に繋がった二人ではありますが、互いを襲う、そして時には家斉を襲う危機をも二人の力で乗り越え、その絆は揺るぎなきものとなりつつあります。
血の繋がった者同士が権力を求めて血を流し合うのに対し、心を繋いだ者同士が、ただ自分たちの幸せを守るために戦う…その姿こそが本シリーズの最大の魅力であると、再確認させられた次第です。
(ちなみにその二人を結ぶ瑞紀が、今回は衛悟のパートナーとして事件の探索に加わり、しかも…というのが、実に微笑ましくも心強いところであります)
そして魅力といえば、本シリーズの魅力はもちろんそれだけでなく、武だけに留まらぬ文の力が存分に描かれる点にもありますが、今回はその担い手として留守居が登場。
どうも地味な印象がある留守居ですが、しかし今回は単なる名誉職に留まらない、見事な力を発揮して、併右衛門を助けるのもまた、見所であります。
さて、本作のラストでは、治済の宣戦布告が描かれ、いよいよ家斉と治済の全面対決が始まることとなります。間違いなくそこに巻き込まれるであろう併右衛門と衛悟の運命は、そしてその混乱を虎視眈々と狙う朝廷側の暗躍は…そして衛悟と冥府防人の宿命の対決の行方は。
まさに決戦待ったなし、であります。
にしても冥府防人は相変わらず強すぎて…今回も著しい成長を示した衛悟もまだまだ及ばぬこの男がどうすれば退場するのか。
ある意味今後最大の注目点かもしれません。
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