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2012.12.16

「ちゃらぽこ 仇討ち妖怪皿屋敷」 いよいよ全開、大江戸妖怪スラップスティック

 真っ暗町の妖怪長屋の連中が、ある日出くわした仇討ち騒ぎ。父の仇・佐波倉に返り討ちに遭った姉弟を長屋にかつぎ込んだ面々は、佐波倉の主君・赤坂主膳が何やら大きな陰謀を進めていることを知る。さらに赤坂に手討ちにされた超性格の悪い幽霊・お菊が長屋に現れ、事態は一層ややこしいことに…

 朝松健の書き下ろし妖怪コメディ時代劇「ちゃらぽこ 真っ暗町の妖怪長屋」に、嬉しいことに早くも続編が刊行されました。

 この「ちゃらぽこ」シリーズの舞台となるは、本所も場末の通称真っ暗町にある、古狸だのうわばみだの野衾など、妖怪ばかりが住み着いたボロ長屋。
 前作は、思わぬことで命を落とした若侍・荻野新次郎がこの長屋に担ぎ込まれたの発端に福の神を巡る大騒動が描かれましたが、今回はある仇討ちを発端に、またまた妖怪長屋の面々が悪党どもを向こうに回して大暴れを繰り広げることとなります。

 両国でぶらぶらしていた新次郎たち長屋の住人の目の前で突如始まった仇討ち騒ぎ。絵に描いたような美形姉弟が、奸悪な剣客を仇と呼んで打ちかかるという芝居の一幕のようなこの仇討ちは、しかし剣客・佐波倉が幾と英之助の姉弟を秘剣でバッサリという、いきなり反則めいた結末を迎えます。

 もちろんこれで二人が死んだらお話になりません。そこらの人間よりも人情に厚い妖怪連中は、早速長屋に二人をかつぎ込み、あの手この手で蘇生に成功。主家の金を横領した佐波倉に父を斬られたという二人の話を聞いた新次郎、そして妖怪たちは、助太刀のために活動を開始するのですが…

 しかし佐波倉の主君・赤坂が、文化文政の世の中に維新だか関ヶ原だか威勢のいいことを唱えて立ち上がろうとする胡散臭い人物。さらに、家宝の皿を一枚割ったという理由で赤岩に殺されたというどこかで聞いたような幽霊・お菊が長屋に押し掛け、事態はこじれにこじれ、またもや事態は江戸を騒がす大騒動に発展してしまうのであります。


 サブタイトル、そしてお菊というキャラクターからわかるように、本作の題材となっているのは、かの怪談「番町皿屋敷」。しかしそれはあくまでも題材であって、物語はそれを遙かに越えて、馬鹿馬鹿しくも(もちろん褒めています)愉快痛快な大騒動が繰り広げられていきます。

 何しろ、ヒロインの一人であるはずのお菊のキャラが立ちすぎているにもほどがある。設定的には悲劇の、薄幸のヒロインのはずが、とにかく性格が悪い。
 自分の悲劇に酔って人の話は聞かないのは序の口、陰口は叩くわ妬み嫉みはまき散らすわ酒乱の絡み酒で酔うと男を押し倒すわ…
 とにかく滅茶苦茶なのですが、しかし存在感抜群で、とにかく登場するだけで場が賑やかになるという、幽霊にあるまじき面白キャラなのであります。

 そして本作の面白さは、何よりも、このお菊の存在に代表されるような、ポンポンとテンポよく飛び出してくる台詞とギャグの釣瓶打ちにあります。
 特に台詞のやりとりの中に状況説明やら心情描写やらを盛り込み、それがそのままギャグに直結していくという辺りは、落語の話術を踏まえていることが感じられますが、しかし本作の面白さの源はそれだけに留まらないと感じられます。

 そう、本作に満ち満ちているのは、作者が得意としてきた、アクションをたっぷり盛り込んだ(すなわちキャラが、状況が動きまくる)スラップスティックコメディの呼吸。
 前作の紹介の際にも書きましたが、最近ではホラーや伝奇がメインの作者が、もう一つ得意とするのがスラップスティックコメディであります。
 本作は、その楽しさが、上で触れたように落語のテイストなども加えてアップデートされた印象。前作は正直なところまだ控えめだったそれが、本作ではいよいよ全開になってきた感があるのです。
 とにかく、お菊に限らず脳天気でバイタリティ溢れるキャラたちのやり取りを見ているだけでもこちらも楽しくなる…そんな作品であります。


 ちなみに本作の悪役たちについて。彼らがもくろむ陰謀は、あまりにも荒唐無稽で、「ないない」と笑う方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし我々の現実を振り返ってみれば、そんなことを本当に言っている人間がいるわけで…悪役たちの陰謀を笑う我々が笑われかねない、そんな状況なのです。
 その辺りの毒の効かせようもまた作者らしい――蛇足ながら、そう感じた次第です。

「ちゃらぽこ 仇討ち妖怪皿屋敷」(朝松健 光文社文庫) Amazon
ちゃらぽこ 仇討ち妖怪皿屋敷 (光文社時代小説文庫)


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