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2012.12.18

「晴れときどき、乱心」 先の見えぬ奇人変人たちの宴

 取り柄は人の良さだけの気弱で鈍臭い武士・飛田作之進は、勤めをしくじって無役となり、釣りに明け暮れる毎日。しかし彼の周囲では、新興の商人の襲撃や子供ばかりを狙った人さらいなど、奇怪な事件が次々と起こる。事件を追う岡っ引きの銀次は、作之進を怪しむのだが、事態は思わぬ方向へ…

 デビュー以来矢継ぎ早にユニークな時代小説を発表してきた中谷航太郎の新作は、これまた何ともユニークな作品であります。
 本の帯には「戦慄のノンストップ・アクション時代活劇!」とありますが、むしろ本作を一言で表せば、「サイコサスペンス時代小説」でしょうか…とにかく、類作がすぐには思いつかない作品であります。

 本作の主人公――というか中心人物となるのは、気弱で不器用、武術の腕前はからっきしのダメ侍・飛田作之進。人の良いことと釣りの腕前以外はおよそ取り柄のない彼は、ようやくありついたお役目をしくじって、あっという間に無役に逆戻り、失意のまま暮らすうち、次々と怪事件・難事件に巻き込まれることとなります。

 薩摩藩と結び急速に力を伸ばしてきた新興商人・松坂屋平兵衛が何者かの襲撃を受けてからくも命拾いした事件。大川端で起きた、置いてけ堀の怪を思わせる怪異。一見無関係なこれらの事件のほとんどに共通するのは、関係者が、謎の侍により惨殺されていること――
 腕利きの岡っ引き・銀次は、事件を追ううちに、偶然作之進の存在を知り、興味を抱くのですが…


 と、ここまでであれば普通の(?)捕物帳チックな作品ですが、登場人物、そしてこの先の展開は、意表をつくものばかりであります。
 かの調所笑左衛門ばかりか、水野忠邦ともつながりを持つ松坂屋。作之進の師匠で、ぐうたらしながら底知れぬ強さを持つ兎角先生。松坂屋存じ寄りの蘭学医、しかしその実なんと…な桃山青海。そして次々と凶行を繰り返す謎の「鬼」――

 彼らが作之進、そして銀次らと意外な形で繋がりあい、物語は想像もしなかった方向に転がっていくこととなります。


 正直なところ、本作の題材となっている○○○○は、時代小説は格別、他のジャンルではさまで珍しいものではありません(その正体を探る方法が×××というのもまたベタではあります)。
 しかし、それがどのように物語の本筋に絡んでくるのか、いや、物語の本筋がどれなのか、最後まで見えてこないのが面白い。

 いや、この点を面白いと言っては本当はいけないのかもしれませんが、本作の登場人物たち同様、読者である我々まで、散々事態に振り回されていくのは、ある意味快感である…というのは言い過ぎでしょうか。しかし、この変人奇人の宴とも言うべき作風は、なかなかに捨てがたいものがあります。

 もっとも、それも全て物語の全貌が、物語の落としどころが見えてから言うべきことかもしれません。実のところ本作はまだまだ物語の中途で終了しており――これはこれで一つの区切りではありますが――この先が描かれなければ、さすがに寝覚めが悪い(というより、人によっては怒り出すかもしれませんが…)。

 本作の評価は、物語が完結した際に語るべきかもしれませんが、少なくとも私にとっては、何も先が見えない分、大いに気になる作品なのであります。


 ちなみに本作の表紙イラストを担当したのは、「新選組刃義抄アサギ」などの時代漫画を手がけている蜷川ヤエコ。
 最近は文庫書き下ろし時代小説の表紙イラストも様々な方が手がけるようになって、実に結構なことだと思います(実は本作を手に取った理由も表紙絵に惹かれてだったのですが…)

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