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2012.12.13

「鬼舞 ある日の見習い陰陽師たち」 若き陰陽師たちの拾遺集

 御所を騒がせた薫香の調査の最中、安倍晴明はかつて経験した事件を思い出す。ある貴族から呪詛祓いの依頼を受けて向かった先で、若き民間陰陽師・蘆屋道満と出会った晴明。有り余る才を持ち、無邪気といって良い態度で危険な力を弄ぶ道満の先行きを危惧する晴明だが、事件の背後には…(昔日ノ賦)

 蘆屋道満の息子に安倍晴明の息子たち、ネクストジェネレーションの見習い陰陽師たちの姿を、時にコミカルに、時にシリアスに描く「鬼舞」シリーズ、最新巻は初の短編集であります。
 本編の方は前巻(第7巻)で一区切りといった印象ですが、今回はコミカルなエピソード中心の番外編といった趣があります。

 収録作品は、大半が雑誌掲載のものとのことですが(書誌情報がないのが残念)、なかなか雑誌まで追いかけられなかった人間にとっては実にありがたいお話であります。
 一方、書き下ろし作品「昔日ノ賦」の方も、実に興味深い内容。何しろ、あの晴明と道満の過去にまつわる物語なのですから…

 と、晴明の過去といったら、あの、別の名前で出ていた作品と被るのでは…と心配、いや期待しましたが、そこまで遡ることなく、舞台となるのは本編の十数年ほど前、吉平・吉昌兄弟がまだ本当に幼い時分の物語です(晴明のビジュアル的にはほとんど変わらないようですが…)。

 さて、その微妙なお年頃の晴明と対峙するのが、かの蘆屋道満。既に主人公・宇原道冬の父であることが明かされながらも、故人ということもあってか、(私の知る限りでは)これまで本編で出番のなかったキャラクターであります。
 ここに登場する道満は、晴明もその際を認める天才陰陽師でありながら、人間として何かが欠落しているかのように描かれる人物。
冷静に考えれば、死にかけの人間を式神化するような人物がまともとは思えませんが、本シリーズにはこれまで登場していないタイプのキャラであることは間違いありません。

 この短編では、晴明とはニアミスに近い扱いの道満ですが、子供たちの姿に目を細めるなど、それなりに人間的な側面を見せる晴明(本当に丸くなったな…)と、対照的な存在であることはうかがえます。
 この後、二人の間に何が起こり、そして本編に繋がっていくかは、もちろんここでは語られませんが、いずれ語られるであろうそれが、楽しみになる内容であることは間違いありません。


 さて、その他の作品は、いずれも道冬や吉昌たちを描いた、本編と同じ時間軸のエピソードとなっています。

 道冬と吉昌が、右近少将にご指名されて、彼の昔の恋文にまつわる怪事に挑む「ご指名された見習い陰陽師」
 道冬をはじめとするレギュラーキャラたちが、彼の六条の借家――元・源融の屋敷――で騒動を繰り広げる「見習い陰陽師と六条の借家」
 後宮に女装して潜入させられた道冬が、中宮の御前で絵合わせの熱戦を繰り広げる羽目となる「見習い陰陽師と後宮の秘密」
 本編でお馴染み、晴明の形代の紙人形がとんでもない悲劇に見舞われる「ある日の見習い陰陽師たち」

 その他、本編のイラストレーターによる「まんが版 鬼舞」、掌編「見習い陰陽師はつらいよ」と相当に充実した内容。

 本編の方が、シリアスなところはそれなりにシリアスな展開となっているのに対し、これら短編の方は、ほとんどギャグオンリーの内容。もちろんこちらの顔も大事な本シリーズの魅力ですが、本編では色々な理由で見れそうにないネタの数々を、こうして拾遺として拾ってくれるのは嬉しいところです。

 ちなみに個人的に一番インパクトがあったのは、「見習い陰陽師と後宮の秘密」。本編で事件の調査のために女装して後宮に潜入した道冬の、語られざるエピソードなのですが――これが色々な意味でヒドい(褒めています)。
 絵の才能を見込まれた道冬が、中宮が密かに開いていた絵合わせで美男画五番勝負に挑むことに、という展開自体スゴいですが、その勝負というのが、人名と人名の間に×が入るようなソレで…
 いやあ、怖いですね女の園(ただでさえ女性率が少ない本シリーズで女性がたくさん出てきたと思ったら、こんなお話…)。


 と、それはともかく、どの作品も、本シリーズのファンであれば楽しめること間違いなし。この先しばらくは長編展開となるかと思いますが、またこうした楽しい短編集も見せていただきたいものです。

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