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2012.12.06

「白魔伝 御庭番宰領」 吹雪の中で変転する運命

 大坂での遠国御用を終え、冬の江戸に帰ってきた鵜飼兵馬。堂島で白河藩に関する不審な帳簿を発見した兵馬は、その真偽を探るべく、白河藩からの逃散百姓の五助、はぐれ夜鷹のお蓮とともに、北へ向かう。猛吹雪の中、白河藩に入った兵馬たちは、藩の裏面にまつわる秘密に迫るのだが…

 数奇な運命の末に禄を捨て妻を捨て、表の顔は賭場の用心棒、裏の顔は御庭番の宰領(個人雇いの助手)となった剣士・鵜飼兵馬の運命の変転を描く「御庭番宰領」シリーズ久々の続編、第7弾が刊行されました。

 今回描かれることになるのは、シリーズ第4弾以降、幾度となく兵馬の前に現れる松平定信の白河藩にまつわる事件。
 ある時は暴走した白河藩の影同心を斬り、ある時は定信の前で剣技を披露した兵馬が、天明の大飢饉における白河藩の秘密に迫ることとなります。

 大坂での遠国御用を終えて久々に江戸に帰ってきた兵馬を待っていたもの――それは寛政の改革により火の消えたような有様となった江戸と、その煽りを受けてかつてわりない中だった始末屋お艶が姿を消したという知らせ。その日の宿すら無くした兵馬は、途中であった夜鷹のお蓮とともに、腐れ縁の岡っ引き・花川戸の駒蔵親分のもとに向かいます。

 そこで出会ったのは、ご禁制の錦絵を売っていたという奥州無宿の五助。ある事情から駒蔵が身柄を隠していた五助が、白河藩の出身であると知った兵馬は、五助とお蓮を江戸から所払いするのの監督という名目で、白河藩に向かうこととなるのですが…

 一度は中央から放逐されたに等しい松平定信が老中として江戸城に返り咲く一つのきっかけとなったのが、天明の大飢饉において藩内で餓死者を出さなかったことであることをご存じの方も多いでしょう。

 天明の大飢饉は、本シリーズの第1作目でも描かれた史実ですが、そこで見せた定信の行政手腕に、兵馬は漠然とした疑念を抱いてきました。
 それが大坂での御用で偶然白河藩の米買い付けに関する不審な帳簿を目にして、そして江戸で白河藩の秘密を知るらしい五助と出会ったことにより、半ば運命的に、兵馬はその秘密に迫っていくこととなるのです。


 が――これまでのシリーズがそうであったように、本作においては、そうしたストーリー以上に、事件の渦中に立たされた兵馬の内面描写をこそ、より重点的に描いていると感じられます。

 運命に流されるままに藩を捨て、やがて用心棒、そして御庭番宰領となって、明日をもしれぬまま生きる兵馬。
 彼の心は、身分や立場こそ違え、やむにやまれぬ運命の悪戯で自らの場所を捨てて江戸に来た五助や、改革で江戸に居場所を失ったお蓮と旅する中で――そして吹き荒れる吹雪が彼らの孤独感を募らせ――様々に乱れ、来し方行く末を振り返ることとなるのですが…

 正直なところ、時に散文的とすら呼べるその描写は、やや唐突な感もありますし、そこにページを割いた分、展開は遅く、シリーズの物語としてもわずかしか進んでいない印象があります。
 また、これまでのシリーズ展開を引いている部分も多く(それがまた何度も繰り返される)、初めてシリーズに触れるという方に対して、本作を勧められるかと言えば、ためらわざるを得ません。

 しかし、本シリーズを第1作から読んできた身としては、この先も読み続けるかと言われれば、強く頷くことができます。
 己の居場所を、愛する者を次々と失い、ただ流されるままに生きていく兵馬の姿に、(程度の差はもちろんあれど)自分たちの姿を見る…
 というのは言い過ぎですが、少なくとも彼の運命の旅路がどこに落着するのか、その想いが行き着く果てに何があるのか、それを確かめたいという想いが、私にはあるのです。

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