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2012.12.14

「咎忍」 忍法合戦を描くに必要なもの

 持って生まれた異能と奇怪な忍法を操り、「咎忍」と呼ばれる伊賀の非忍組。その頭領・不空は、上忍・百地丹波から秀吉の傘下に入る手土産として服部半蔵の首を獲れと命じられる。やむなくこれを受ける不空だが、武田残党のはぐれ忍び・十つ者もこの戦いに参戦。三つ巴の戦いの果てに待つものは…

 天正伊賀の乱から数年後を舞台として、忍者たちの三つ巴の死闘を実に数百ページに渡って展開する力作であります。

 本作のタイトルとなっている「咎忍」とは、伊賀忍者の中でも生来の異能・異形を持ち、それを用いて常人離れした忍法を操る「非忍組」の異名。
 その名から察せられる通り、その力ゆえに同じ伊賀の忍びたちからも疎まれ、忌み嫌われてきた彼らは、自らの里に身を寄せ合うようにして暮らしてきた存在であります。

 本作は、その頭領・不空が伊賀の上忍・百地丹波のもとに呼び出される場面から始まります。
 今や日の出の今や日の出の勢いの秀吉の下に投じることを望む百地ですが、しかし秀吉の下には既に甲賀忍者が仕えている。そこで彼は、秀吉の疑念を解き、自分たちの居場所を得るために、先に伊賀を見限って家康に仕えた服部半蔵正成の首を手土産にしようとしていたのでした。

 もちろん、服部半蔵を容易く討てるはずもない。かくて、非忍組に白羽の矢が立てられたのであります。
 気が進まぬながらも、仲間たちの身分の保障のためにこの任務を受けた不空ですが、そこに乱入してきたのが、百地がいま身を寄せる本願寺顕如に仕えていた忍び・十つ者。
 かつて武田に仕えた忍び・三つ者の中でもはぐれ者が集まったこの十つ者の頭領・十軌は、強引にこの任務に加わり、かくて非忍組vs十つ者vs服部党の三つ巴の忍者戦がここに始まることに――


 という基本設定の本作ですが、この戦いのフレームワークが決まった後は、非常にシンプルに、ひたすらに忍者同士が秘術を尽くして互いに潰し合うという凄絶な死闘が展開されていくこととなります。
 その戦いに割かれた分量たるや冒頭に述べたとおり数百ページ、400頁弱の本作の大半が、ただただ忍者同士の戦いに費やされている――そしてそれで物語を成立させているのですから凄まじい。

 胃に溜めた強酸性の胃液や石飛礫を口から放つ那羅延、己の身体の硬度を硬軟自在に変える獅喰、どんな男の心も蕩かす強烈なフェロモンを発する迦陵…上に述べたように特異体質による忍法を使う非忍組。
 これに対する十つ者は、(どちらかと言えば)機械的もしくは特殊技能的忍法を操る集団。本作の大半は、このある意味対照的な両集団の殲滅戦が描かれることになります。


 が――ほとんど忍法合戦のみで物語を保たせたスキルは感心するものの、本作が文句なしに面白いか、と聞かれれば、それは残念ながら別の話と言わざるを得ません。

 実のところ本作においては、その最大の魅力である忍法合戦を戦う忍者たちのキャラ立ちと、そこにある意味直結したストーリー展開が弱いという印象が強くあります。
 どれほど秘術を尽くした忍法合戦が繰り広げられようと、そこで戦うのはあくまでもキャラクターたち。そして彼らが戦う理由、戦った結果を描くのがストーリーであって――その両者が弱ければ、忍法合戦の印象もまた弱まりましょう。

 厳しいようですが、不空をはじめとして(というか不空が一番)非忍組のキャラが弱いため、彼らの活躍に痛快さを感じたり、あるいは消耗品のように扱われるその運命に悲しみを感じたりすることがしにくい。むしろ、敵役として極端に描かれる十つ者の方が、キャラ立ちの面では印象に残ります。
 そして何よりも、実際に彼らの強さがさほど感じられないのが厳しい。非忍、咎忍とまで呼ばれるほどの彼らの「化物」ぶり、それが描かれて初めて本作は成立するものですが、それが感じられるかと言えば…(せめて、冒頭に本編とは無関係に彼らの活躍が描かれればまた違った印象となるのですが)。


 色々と厳しいことを書いてしまいましたが、それだけ惜しい作品であったこともまた確かであり――そして、本作には、忍法合戦を描くのにに必要なものが何か、再確認させていただきました。
 本作をステップとして、さらなる飛躍を遂げていただければ嬉しいのですが…


 も一つついでに言ってしまえば、みんな本当に口数が多いのが…いくらはぐれ者たちだからといって、プロとしてさすがにいかがなものかと。

「咎忍」(浅田靖丸 光文社) Amazon
咎忍(とがにん)

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