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2013.01.07

「宿神」第2巻 募り続ける想いの果てに

 ついに鳥羽上皇の中宮・璋子との一夜を過ごした佐藤義清。しかし一度だけの逢瀬は彼の心を更に悩ませ、その想いは彼を上皇らの前で思わぬ行動に駆り立てる。そして遂に出家して西行と名乗る義清。しかし時代の巨大なうねりは、西行を、清盛を、璋子を飲み込んで動いていく…

 西行=佐藤義清を主人公として平安時代末期を描く夢枕獏の伝奇小説「宿神」の第2巻であります。

 幼い頃から奇怪な影のような存在を見ることがあり、自分と同様にそれを見る力のある璋子に強烈に惹かれていくようになった義清。
 義清の親友である平清盛に仕える奇妙な呪師・申により、義清はそれが「宿神」と呼ばれる存在だと教えられます。
 万物に宿り、万物を万物たらしめる宿神――時に呪により喚び出され、時に優れた蹴鞠の技に感応して現れ…様々な時と場所に現れる宿神の存在は、しかしその正体の一端が語られても、いや語られたからこそ、なお一層謎めいた存在として在り続けます。
(晴明辺りに言わせると、「それは呪じゃ」の一言で済まされそうな気もしますが…というのはさておき)


 しかしこの巻で描かれるのは、そうした一種超自然的な存在とは無縁な人の心――義清の想いであります。
 かつて一度垣間見た璋子の姿に恋い焦がれ、ついに想いを遂げた義清。しかしその一度のみで璋子は義清からは再び手の届かぬ人となり――そして一度では押さえきれぬ彼の想いは、ついに意外極まりない場所で爆発することとなるのです。

 それは鳥羽上皇の御前、上皇の襖絵に記す和歌を披露することとなり、そこで璋子への溢れる想いの赴くまま、十枚の襖絵に、十首の和歌を即興で描く――いや、叩きつける義清。
 上皇の御前であろうと、他の貴族たちの目があろうと構わない。ただただ、己の想いのままに、璋子を貫くが如く、歌を詠み、描く…

 恥ずかしながら、この出来事が史実であるか、私は知りません(おそらく違うのではないかと思います)。しかし、ここで描かれた義清の激情の発露は、そんなこととは無関係にこちらの心までも強く揺さぶり、叩きつけるように、我々を圧倒します。

 作者の作品では、時折、凄まじいまでに凝縮された空気が、一気に爆発するようなシーンが描かれることがあります。
 それはこれまで主に格闘やアクションといった場面でありましたが、しかし本作のそれは、歌を詠むという、ある意味それとは最も縁遠く感じられる雅な――しかし人の想いが発露される場において描かれたことに、ただただ感嘆するばかりであります。


 そしてこの一場の激情を経て、義清は西行として出家することになります。が、出家したからと言って人の想いが失われることがないのもまた事実。義清の、いや西行の璋子への想いは、彼女の運命が不遇なものとなっていくのと比例するようになおも募っていくのですが――
 しかしその想いを知ってか知らずしてか、璋子が儚くこの世を去る場面を、この上もなく美しく描いて、この第2巻は幕を閉じます。

 己の運命を一変させるほど想い抜いた相手を失った西行ですが、しかし彼の生はなおも続きます。その後の彼が何を想い、何のために生きていくのか――さらに、そこに彼の捨ててきた貴族の世界、武士の世界がどのように絡んでいくのか。

 そしてもちろん、「宿神」の存在が彼にどのように関わっていくかを含め、物語の半ばに来ても全く先は見えないものの、しかしそれでもなお、興味は尽きぬ物語であります。

 ちなみに申の妹の鰍がこの巻で名前を変えることになるのですが、それがなんと…!
 なるほど時代的には同じ時代の物語ですが、果たしてお遊び以上の意味があるのか、こちらも個人的に気になるところです。


「宿神」第2巻(夢枕獏 朝日新聞出版) Amazon
宿神 第二巻


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