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2013.01.10

「戦国怪異聞 桶狭間の変」 妖魔姫が見た義元

 何が飛び出してくるかわからない素晴らしい雑誌となったリイド社の「戦国武将列伝」誌ですが、2月号に登場したのはなんと楠桂。戦国ホラー「戦国怪異聞 桶狭間の変」をひっさげての登場であります。

 楠桂はホラーからラブコメに至るまで様々な作品を描いてきましたが、このブログ的に注目すべきは、やはり「妖魔」「人狼草紙」「神の名は」といった戦国時代を舞台とした時代ホラーでありましょう。

 人と人が殺し合う時代の陰で跳梁する妖怪魔霊を描いてきた作者の今回の題材は、かの桶狭間の戦――桶狭間に至るまでの今川義元の姿を描いた作品であります。

 戦国大名として破竹の勢いの今川義元を悩ませるもの…それは、周囲の者たちが彼の背後に見るという亡霊の影。
 かつて義元との家督争いの末に敗れて討たれた玄広恵探の怨霊と囁かれるその存在を一笑に付す義元ですが、しかし彼の前で怨霊を見たという者たちが、次々と奇怪な死を遂げていくこととなります。

 ある者は自らの髪で首を絞め、ある者は首を捻り上げられ、ある者はその身を両断され、またある者はその首を落とされ――
 それでもなお、亡霊の存在を信じない義元が、信長との合戦に向かわんとした時、彼の前に美しい妖魔の姫君が現れます。彼女が義元に告げる真実とは…

 義元にまとわりつく怨霊の姿、死者の無惨な死に様、そして美しい妖魔の姫君と、いかにも作者らしいビジュアルの数々を見せてくれる本作ですが、個人的に特に印象に残ったのは、今川義元の姿であります。
 一般的なイメージの通り公家的なビジュアルを残しつつも戦国武将らしい剛毅さも感じさせ――しかしその中に腺病質的なものを感じさせる本作の義元。
 その姿は、ラストで描かれる意外かつ皮肉などんでん返しに、「人間が一番怖い」という以上の説得力を与えているようにすら感じられます。

 意外と言えば、妖魔の姫君の正体も「何故ここに!?」と驚かされるのですが、ラストの一文で納得。このスタイルで、まだまだ戦国怪異聞を描けるのでは…と感じた次第です。


 さて、その他の掲載作品にも触れておきますしょう。まず、女流作家特集ということでもう一作掲載されたのは朔田浩美の「恩寵の百合 細川ガラシャ伝」。
 タイトルの通り、細川ガラシャの生涯を綴った本作、基本的に史実通りの内容ではありますが、ガラシャとその夫・細川忠興の関係が、ふとしたことで壊れ始め、地獄のような状態になってしまう描写が圧巻。

 ああ、男女の間ってこの程度のことでどうしようもなく離れて、しかしそれでも(比べものにならないくらい時間がかかったとしても)また強く結びつくことはあるな、と説得力を持って感じられるのは、作者の力量でしょう。
 実は初めて作者の作品を読みましたが、幕末ものの作品も発表しているとのこと、こちらも大いに気になります。

 また、連載ものでは連載第2回の「孔雀王 戦国転生」は、奇しくも桶狭間直前の今川義元がこちらにも(?)登場。こちらの義元は、化粧呪なる奇怪な呪術を操り、美少年の信長に懸想して、夜毎信長の元に巨大な顔面と化して迫るという変態ぶりであります。
(その姿には元祖孔雀王に登場した某キャラを思い出しました)

 しかし驚かされたのは、第1回を見たところでは妖魔の首魁のように見えた信長が、今回はそのビジュアル以外は存外普通の人間であり、孔雀に守られる側に回っていた点ですが…これはこちらの勘違いであったのか、はたまたまだこれからひっくり返すのか、気になるところです。

 もう一つ、「セキガハラ」は、秀吉を殺した謎の大蜘蛛に取り憑かれたかの如く暴走を始めた家康の城に、三成・左近・利家が突入するという展開。
 家康が、秀吉の死後に禁止されていた大名間の婚儀を行って勢力を広げていったというのは有名な史実ですが、本作ではそれをあまりにも豪快な形で描いているのには、感心すべきか笑うべきか…

 それはさておき、セキガハラ以前に早くも決戦ムードになってきましたが、さてこの先どう展開していくのか。三成の能力が一番地味に見えてしまう点も含めて、色々と気になるところではあります。


「戦国怪異聞 桶狭間の変」(楠桂 リイド社「戦国武将列伝」2013年2月号掲載) Amazon

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