« 「浣花洗剣録」第15集/第16集 大会前夜、風雲少林寺! | トップページ | 「天下一!!」第5巻 リア充パワーは歴史を変えるか!? »

2013.01.19

「元禄の雪 白狐魔記」 武士の戦いと、消費される物語と

 戦乱が遠い昔となった元禄の世。江戸に出た白狐魔丸は、江戸城から強い邪気が発せられているのを知る。邪気の源を探るうちに松の廊下の刃傷に出くわした白狐魔丸は、いつしか浅野家、吉良家それぞれの人々と関わりを持っていく。ついに行われた赤穂浪士の討ち入りで、白狐魔丸が見たものは…

 神通力を持った狐・白狐魔丸が、長い時の流れの中で人間の生き様、武士の戦いの有様を目撃する「白狐魔記」シリーズ、久々の新作であります。
 これまで、源平合戦・元寇・南北朝の争い・本能寺の変(戦国時代)・島原の乱という題材で描かれてきた本シリーズですが、本作の舞台となるのは、そうした戦乱とは無縁となったはずの元禄時代――そう、赤穂浪士の討ち入りであります。

 相変わらず人間とつかず離れずの暮らしを送る白狐魔丸。師である白駒山の仙人から勧められ、これまであまり好きではなかった江戸に足を踏み入れた彼は、そこで歌舞伎の女形に化けて暮らしている雅姫――自分と同じ、いや遙かに上回る神通力を持つ雌狐――と、島原の乱以来久しぶりに出会います。

 姫に勧められるまま江戸に滞在することとなった彼が巻き込まれたのは、浅野家と吉良家の間の騒動。
 江戸城を中心に渦巻く謎の邪気の源を探りに行った際、目の前で浅野内匠頭が吉良上野介に斬りつけるのを目撃した白狐魔丸は、神通力でもって内匠頭の動きを止め、さらに、即日切腹することとなった内匠頭が、辞世の句を遺せるように計らいます。

 しかし(もちろんそれだけが理由ではないにせよ)結果的に彼の行動が影響して浅野家の遺臣たちは、主君の無念を晴らすための行動に出ることに。唯一、事件の一部始終を目撃していた白狐魔丸は、騒動の全てを見届けるために、江戸に留まるのですが…


 冒頭で述べたとおり、今回描かれるのは、泰平の世の鬼子のように現れた武士と武士の戦い。既に実際の合戦を知る者もほとんどない(冒頭で前作の登場人物のその後の姿を描くことで、世代の隔絶を示すのがうまい)時代での戦いは、必然的に、これまでの物語で描かれたそれと、異なる形となります。

 本作でその象徴となるのは、吉良方の清水一学と、浅野方の大高源吾でありましょうか。百姓の出身でありながら武士以上に武士たらんと努め、それゆえに散っていった一学。名門の武士ながら、俳諧で才能を発揮した(そしてそれを仇討ちに役立てた)源吾。
 どちらもこれまでの時代には存在し得なかったタイプの武士であり、そこに白狐魔丸が二人と接点を持って描かれるゆえんがあるのでしょう。

 が、それ以上に本作の視点で感心させられるのは、本作の重要な要素として、歌舞伎などの芝居を設定していることでありましょう。
 もちろん、本作で描かれた出来事が、後に「忠臣蔵」という芝居として人口に膾炙し、後世に残ることとなったのを見ればわかるように、赤穂浪士の討ち入りと芝居は、縁浅からぬものがあります。
 しかし本作においてはそれはむしろ、事実に対する虚構の象徴、事実を消費して成立する物語の世界として描かれることとなります。

 この事件のほとんど全てを知る白狐魔丸にとって、人間たちが巷説として面白おかしく物語ることは全て虚構であり、「忠臣蔵」はその集大成たる存在と言えます。
 その中では、命を賭けて戦った人々の想い、彼らの、彼らの周囲の人々の営みも、壮大なフィクションとしてただ消費されていくばかりなのであります。

 その一方で、一部始終を目撃する白狐魔丸もまた、しかし人間たちの営みを消費しているとも言えるのです――そして、その白狐魔丸の物語をこうして読む我々もまた。


 武士が変質する中での、最も武士らしい営みである戦いの有様と、それをフィクションとして消費する我々人間の姿。本作はそれを――これまでのシリーズ同様――いささかシニカルに、しかしどこまでも公平に、淡々と語ります。
 何が正しくて、何が間違っているのか――それは私たちがこれから考え、答えを出すべきものなのでしょう。


 ちなみに本作の事件の淵源となる江戸城を覆う邪気ですが、それの正体を幕藩体制の歪みから生じる武士たちの負の情念に求めるというのは、ファンタジックでありつつも、それなりに当時の幕府と大名の関係を踏まえたものであり、この辺りのさじ加減はさすが、としか言いようがありません。

「元禄の雪 白狐魔記」(斉藤洋 偕成社) Amazon
元禄の雪 (白狐魔記)


関連記事
 「白狐魔記 源平の風」 狐の瞳にうつるもの
 「白狐魔記 蒙古の波」 狐が見つめる人間の、武士の姿
 「白狐魔記 洛中の火」 混沌の中の忠義と復讐
 「白狐魔記 戦国の雲」 方便という合理精神
 「白狐魔記 天草の霧」 無理解と不寛容という名の霧

|

« 「浣花洗剣録」第15集/第16集 大会前夜、風雲少林寺! | トップページ | 「天下一!!」第5巻 リア充パワーは歴史を変えるか!? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/56524953

この記事へのトラックバック一覧です: 「元禄の雪 白狐魔記」 武士の戦いと、消費される物語と:

« 「浣花洗剣録」第15集/第16集 大会前夜、風雲少林寺! | トップページ | 「天下一!!」第5巻 リア充パワーは歴史を変えるか!? »