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2013.01.22

「小袖の陰 御広敷用人大奥記録」 大奥の波瀾、外の世界を動かす

 勘定吟味役の次は大奥の御広敷用人、火中の栗を拾い続ける(拾わされ続ける)水城聡四郎の苦闘を描く「御広敷用人大奥記録」シリーズの第3弾であります。
 吉宗が想いを寄せる竹姫を正室に迎えるために動き出したことが、様々な勢力の思惑に影響を与えることに…

 徳川綱吉の養女・竹姫に心を奪われ、正室に迎えんとする吉宗。
 その意を汲んで前作では京に向かうこととなった聡四郎ですが、その途中で御広敷伊賀者、そして伊賀の里の刺客を撃退したことで、彼らの恨みを買う羽目に。

 一方、吉宗の意志を知った天英院――6代将軍家宣の御台所であり、現在の大奥を統べる実力者――は、竹姫の存在が自分の権力を揺るがすと考えて排除に動き出し、さらにそれを阻むべく、竹姫の実家側も動き出します。
 それに加えて、主君に次の将軍位を継がせようとする(≒自分の地位を引き上げようとする)館林松平家の家老が自らの配下を大奥に送り込み、何やら暗躍を開始。

 さらにさらに、いまだ執念深く聡四郎を付け狙う御広敷伊賀者は、伊賀から放擲され剣の道に進んだ男・柳左伝を聡四郎主従への刺客とした上、伊賀の里から来た女忍たちを大奥にまで送り込みます。

 かくて、たちまち暗闘の場となった大奥で、聡四郎は竹姫付きの御広敷用人に任命されるのですが…


 上田作品の醍醐味といえば、幕府の権力の頂点を巡り、様々な勢力がそれぞれの思惑を持って暗闘を繰り広げる絡み合う姿ですが、本作をもって、いよいよ本シリーズでもその図式が明確になってきた印象があります。

 面白いのはその舞台が大奥であり、そしてその争いの引き金となったのが、吉宗の竹姫への純粋な想い(吉宗35歳、竹姫13歳ですがそれはさておき)という点でしょう。
 大奥において将軍が誰を寵愛するかが、そのまま大奥内の権力闘争に繋がっていくというのは、これはもう定番ですが、それが「外の世界」――それも、幕府と朝廷の関係に繋がっていくというのが非常に面白い。
(さらに終盤、その関係が大奥にまつわるあの巷説に結びつけられて語られるのは、ちょっと感心しました)

 純粋な想いといいつつ、自分の行動が大奥に波瀾を起こすことも承知の上で動いている吉宗にとっても、果たして外の世界への影響までを想定していたことでしょうか。
 もっとも、その辺りのあれこれは、全て聡四郎がひっかぶることになりそうですが…


 と、残念なのはその聡四郎の存在感が、本作では薄いことであります。
 元々、聡四郎自身が基本的に足を踏み入れることができない世界が舞台ではありますが、話が大きくなればなるほど、聡四郎が直接にタッチできる部分が少なくなるのは、やはり本シリーズの弱点でありましょう。
(特に、上で述べた大奥の秘密が、彼と全く関係ないところで、全く関係ない人物の口から語られることもあり…)

 そんな彼が活躍できる場である剣戟シーンにおいても、基本的に受け身のスタンスであることもあって、彼よりも敵方の伊賀者の方に描写が割かれており、その印象はなおさら強まります。


 彼の愛妻である紅が竹姫の話し相手となるという設定は、これからの展開に面白い変化をつけてくれることを期待できそうですが…

 先に述べたとおり、本シリーズの、上田作品の醍醐味である権力を巡る暗闘。しかしそのスケールが大きくなればなるほど、主人公の存在感が薄れるというのは、ある意味構造的に無理もないとはいえ、やはり大きな弱点ではありますまいか。
 その点が大きくひっかかります。


「小袖の陰 御広敷用人大奥記録」(上田秀人 光文社文庫) Amazon
小袖の陰: 御広敷用人 大奥記録(三) (光文社時代小説文庫)


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