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2013.01.02

「藪の奥 眠る義経秘宝」 秘宝が導く人間への、文化への希望

 1865年、友人の遺産から「黄金郷ヒライズミ」の地図を入手したシュリーマンは、一攫千金と名声獲得を夢見て日本を訪れた。替え玉を立て、蝦夷に化けて平泉を訪れたシュリーマンだが、そこで彼を待っていたのは、山を守る修験者たちと謎の黒覆面の集団だった。果たして平泉に眠る秘宝の正体とは…

 このところ、東北を舞台とした、あるいは東北と縁のある時代小説を次々と発表している平谷美樹の新作「藪の奥 眠る義経秘宝」は、サブタイトルから察せられるように、やはり東北を舞台とした作品。
 しかし、その内容は、こちらの想像を遙かに越えたものであります。何しろ、あのハインリヒ・シュリーマンが幕末の日本を訪れ、平泉に眠るという奥州藤原氏の秘宝を探すというのですから!

 実は、シュリーマンの来日自身は創作ではなく、史実であります。彼の名を歴史に残したトロイア発掘着手の数年前、世界旅行の中で日本を訪れたシュリーマンは、その旅行記の中で日本に対して非常に好意的な記録を残しているのですが…本作では、その背後に秘められた、とてつもない物語を描き出すのです。

 貧しい中から身を起こし、手段を選ばぬ努力で大富豪として成功したシュリーマン。そんな彼が、考古学を趣味とする友人の遺産を処分する中、「黄金郷ヒライズミ」の記録を発見する場面から物語は始まります。
 その友人と話を合わせるため、トロイア発掘の夢を語っていたシュリーマン。しかし金儲けに没頭してきた半生に物足りなさを感じていた彼は、トロイア発掘の資金集めと、一種の予行演習のため、平泉に眠るという黄金探索を決意するのであります。

 しかし当時の日本は開国したて、外国人が居住地を離れることは基本的にできず、まして奥州を訪れるなどとんでもない話。そこで彼は、横浜に暮らす友人の商人、そしてこの企てに興味を持った日本人商人を引き込み、居住地に替え玉を残し、自らは蝦夷に扮して平泉を目指すのであります。


 かくて始まるシュリーマンの冒険行。しかしその展開は、その派手な(?)題材に比較すれば、やや地味にも感じられます。
 内容的には伝奇活劇というより伝奇推理的と申しましょうか――作中の大部分は、シュリーマンが探索の拠り所とする「吾妻鏡」の解説や、それをはじめとする様々な手がかりの中から浮かび上がる、平泉という都市に込められた思想の解読が占めることとなります。

 その意味では、期待したものとは異なる…と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、しかしこれがむしろ派手な題材に頼ることなく、奥深い味わいを生んでいるのであり――そしてまたこの部分が、結末に描かれる秘宝の正体に直結してくるという構造が実に面白いのであります。
(そして、最後まで読んでからタイトルを見直すと、アッ!と驚かされることに…)

 しかし本作最大の魅力は、主人公たるシュリーマン自身の成長譚が描かれる点である、と言って良いでしょう。
 この時代の欧米人が基本的にそうであったように、己を「文明人」と任じて、自らの文明圏以外の人々を一段低いものとして、自分たちと同じ存在として見ていなかったシュリーマン。
 彼のその態度は、しかし自分が蝦夷に――当時の日本において、他の人々からいわれのない差別の目で見られていた人々に――扮して旅したことで、初めて自分たちの独善性に気づくことになるのです。

 そして彼のその思いが、平泉の、日本の人々と文化を理解し、平泉や秘宝に込められた想いを知ったからこそ迎えられた結末に至り、秘宝探索の物語とシュリーマンの成長の物語が、見事に一つに結びつくことになルのです。


 …本作のような物語が今描かれることの意図は明白すぎるほど明白であり、そこに引っかかる向きもあるかと思います。しかしながら、やはりこの物語は岩手出身の作者ならではのものであり、そしてそれだけでなく、地域性に留まらない「広さ」を持った作品であることは間違いありません。

 外国人の目から日本を、東北を描くと同時に、それを通じて人間の、文化の在るべき姿と、それに対する小さな希望を描く――見事というほかありません。


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