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2013.01.11

「夫婦喧嘩 甲子夜話異聞 もののけ若様探索帖」 老いて振り返る若き日の輝き

 若き日の松浦静山と妖怪たちの交流を描く伊多波碧のユニークな妖怪時代小説「甲子夜話異聞 もののけ若様探索帖」、待望の続編は、静山の正室の輿入れを中心にしたエピソードの数々が描かれることとなります。

 死を目前とした静山の前に現れた座敷わらしの太郎。清と呼ばれた若き日に静山とは常に行動を共にしていた太郎は、静山の「甲子夜話」にまだ記されていない、自分たち物の怪のエピソードを書くよう、静山に求めて…

 という、極めてユニークなスタイルで展開する本シリーズ、今回は静山がつかの間のまどろみの中で見た、かつて縁のあった女性たちが三途の川まで彼を迎えに来る夢から始まります。
 艶福家で鳴らしたという(設定の)静山のこと、女性たちの数もかなりに上るのですが、その中に正室の鶴年子がいなかったことをきっかけに、静山は彼女の輿入れにまつわる事件、そして夫婦の仲にまつわる事件を思い出していくこととなります。

 そんな導入部の本作は全四話構成。
 化け狸から妻を奪ったと詰め寄られた清が妖怪の夫婦喧嘩に巻き込まれる「夫婦喧嘩」
 平戸藩下屋敷で起きたボヤ騒ぎに巻き込まれた清が、おかしな動きを見せる瓦版屋を追う「雨女」
 妖怪だらけの上屋敷の奥に珍しく居ついた人間の娘に、ろくろっ首のおはなが身の上を語る「おはな」
 町を行く清の駕籠を襲った子供との出会いをきっかけに清が知る不思議な姉弟愛の姿「放蕩者」

 どのエピソードも、何故か妖怪の女性にもてまくる体質の清が、妖怪たちに騒動に巻き込まれつつも、懸命に事件を解決しようと奔走する姿が、おかしくも微笑ましいものばかり。
 コメディ風味の強い人間と妖怪の交流譚は、もはや文庫書き下ろし時代小説内の一ジャンルとなった感がありますが、本シリーズの面白さは、主人公が若き大名でありながらも(いやそれだからこそ?)、妖怪たちに振り回される姿にあると言ってもよいでしょう。

 そしてそれは、本シリーズの最大の特徴である、老いた静山が、若き日の自分の姿を振り返るというスタイルにより、より増幅されて感じられます。
 ある程度以上の年齢の人間であれば誰もが感じるであろう、若き日の自分の姿に対する気恥ずかしさと懐かしさ、そして憧れ。
 本シリーズはそのフィルターを通すことで、賑やかで輝かしい物語に、どこか穏やかな切なさという隠し味を与え、それがまた物語の面白さを増しているのであります。

 ちなみに本シリーズは松浦静山という実在の人物を主人公とすることで、伝奇的味わいの強いエピソードも含まれるのがまた面白いのですが、本作では「おはな」で描かれる、松浦家のある秘密が印象に残ります。
 なおこのエピソード、一見ユーモラスな内容に見えて、強すぎる情念が人間を妖怪に変えるという恐ろしい事実が描かれるとともに、一種の二段オチとも言うべき構造になっており、先に述べた松浦家の秘密とも合わせて、今回のベストと感じられた次第です。


 さて、本作で冒頭からラストまで引っ張られた清の正室・鶴年子の輿入れ。実は本作では微妙にぼかした形で終わるのですが、もしラストで登場した人物がそれであれば、またややこしいことになるはず。
 この予想が当たっているかも含めて、これから描かれるであろう、更なる「書かれざる甲子夜話」の物語が今から楽しみなのです。


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