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2013.01.24

「芳一」 無頼の琵琶法師、室町の狂騒を往く

 悪知恵とクソ度胸、そして亡霊まで呼び出す琵琶の腕前で世間を渡る琵琶法師の芳一。親友の橘三位とともに鎌倉にやってきた芳一は、そこでなりゆきから足利義詮より鎌倉幕府を滅ぼしたという秘文書「北条文書」の探索を命じられる。これが、鎌倉・京・九州まで渡る芳一の冒険の始まりだった…

 ユニークなファンタジー、特に時代ファンタジーを書くことで注目している堀川アサコの新作は、久々の室町ものということで飛びつきました。
 舞台となるのは足利尊氏が鎌倉幕府を滅ぼしてから十数年が過ぎた頃、そして彼とその庶子である足利直冬の対立が世を騒がせていた頃――一寸先は闇の混沌の時代を、琵琶法師の芳一が駆け抜ける、短編連作形式の作品であります。

 主人公の芳一は、琵琶を鳴らせばその音に応えて亡霊が現れるとまで言われる琵琶の名手。…とくると、「耳なし芳一」の物語を思い浮かべますが(作中に同様の趣向のシーンもありますが)、しかしこの芳一は、黙って亡霊に襲われるほどヤワではありません。

 腕っ節こそからっきしですが、芳一は幼い頃から都の闇の中で育ち、裏の世界を知り尽くしたバイタリティ溢れるワル(…のわりにはずいぶんとお人好しなのですが)。
 そして、三位の大殿や尊氏の子・義詮といった身分違いの相手とも何となく友達づきあいを始めてしまう、不思議な魅力を持った男なのであります。
(ちなみに私は未読ですが、作者が第15回小説すばる新人賞の最終候補となった作品のタイトルは「芳一――鎮西呪方絵巻」とのこと。本作の原型でありましょうか?)

 本作はそんな芳一がその琵琶の腕前から、あるいはなりゆきから巻き込まれた奇怪な事件の数々を描きます。

 その第一話は、親友の三位の大殿とともに鎌倉を訪れた芳一が、義詮の前で琵琶を弾いたのをきっかけに、義詮の誘拐事件に巻き込まれ、さらに最後の執権・北条高時が持っていたという謎の「北条文書」を探して、鎌倉を奔走するエピソード。
 代々の執権に継承されながらも、絶対の秘事として隠されてきたその文書を探すうち、芳一は鎌倉幕府滅亡に隠された秘密を知り、その背後で糸を引いていた怨念の幻術師・永久男と対決することとなります。

 そして北条文書の謎と幻術師との対決は、京を騒がす幻の相撲会と直冬の暗躍が描かれる第二話、九州を舞台に文書の真の正体とその顛末が描かれる第三話まで続いていくのであります。


 …というと、何やらハードな伝奇活劇のようにも見えますが、実際の印象は大きくことなります。主人公の芳一からして型破りなキャラクターではありますが、その他の登場人物は、彼が平凡な人間に見えるような、良く言えば個性的な、はっきり言えば奇人変人揃い。
 本作は、そんなエキセントリックな連中がドタバタ騒動を繰り広げる、スラップスティックコメディ的な味わいが、強くあります。

 正直なところ、こうしたノリに面食らう方、芳一が事態に流されるまま、翻弄されていく姿に失望を感じる向きも少なくないのではないかと思います。
 その点は確かにできないものの、私自身としては、この狂騒的な空気こそが実に室町的だと感じますし、歴史にその名を留めた権力者たちに比してあまりに無力な存在であるからこそ――第三話で描かれた北条文書の真実とその顛末に示されるように――逆説的に、この物語の主役にふさわしいと、そう感じるのです。

 もっとも、このキャラクターや舞台の狂騒ぶりと、繊細ともいえる謎が随所に隠された物語の噛み合わせがいいとは、到底言えません。そのため、物語にはほとんど常に――作者が意図したものかは疑わしい、意図したものとしてもあまり機能しているとは感じにくい――もどかしさがつきまとうこととなります。

 その辺りは私としても大いに不満であり、万人にお勧めできる作品とはちと言い難いようにも感じますが、しかしその辺りの歪さも含めて、室町の空気を感じさせる作品…というのは褒めすぎかもしれませんが。


「芳一」(堀川アサコ 講談社) Amazon
芳一

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