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2013.01.30

「画皮 あやかしの恋」 古の物語を今の物語に

 砂漠で盗賊から美少女・小唯を救い出した将軍・王生は、身寄りのない彼女を家に住まわせる。その頃から街では心臓をえぐり取る殺人事件が相次ぎ、妖魔の仕業と噂されていた。王生と佩蓉の古い友人・パンヨンは、降魔師の少女・夏冰とともに妖魔を追うが、王生を狙う妖魔の罠は佩蓉に迫っていた…

 「聊斎志異」といえば、日本でも古くから親しまれている怪異小説集であり、私も小さい頃に子供向きにリライトされたものを夢中で読んだ記憶があります。そして香港映画ファン的には何と言っても「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」の原作なわけですが――本作「画皮 あやかしの恋」も、この「聊斎志異」を原作とする作品であります(と言っても、人の皮をかぶって美女に化ける妖怪と、それを家に引き込んでしまった男とその妻の物語、という部分以外全くの別ものですが)

 おそらくは古代の中国、さる街を守る将軍・王生の部隊が砂漠の盗賊を討ち、美しい少女を連れ帰る場面から物語は始まります。身よりのないその少女・小唯は、王生の家に引き取られて妹のように遇され、王生の妻・佩蓉とも仲睦まじく暮らすのですが――
 実は小唯こそは、人間の皮を被り、人間の心臓を喰らって生きる狐の妖魔。凛々しい王生に一目惚れした彼女は、王生の家に潜り込み、彼の妻の座を狙っていたのであります。
 そして街では小唯に仕える妖魔により、次々と犠牲者の心臓をえぐり取られる猟奇殺人が発生。小唯の存在に疑いを抱くようになった佩蓉は、武勇に優れた豪傑ながら彼女への恋に破れて軍を捨て、各地を放浪していた男・パンヨンを招き、犯人捜しを依頼することになります。
 折しも、妖魔に祖父を殺された降魔師の少女・夏冰も、妖魔の存在を察知して街を訪れ、パンヨンと凸凹コンビを結成して妖魔を追うのですが――


 という物語の本作は、メインキャラクターは6人ほどですし、小唯の正体や連続殺人の真犯人も物語のかなり早い段階で提示されるなど、正直なところプロットと設定自体は非常にシンプルであります。
 にもかかわらず、本作は十分以上に魅力的な作品であり、最後までだれることなく観ることができたのですが、それは物語を――物語の中のキャラクター描写を、丁寧に丁寧に積み重ねて見せた、まさにその点にあります。

 優れた武人であり、妻を優しく愛するイケメンという非の打ち所のない人物でありながら、小唯の魅力に次第に引き寄せられていく王生。
 気丈に王生を支える中、ただ一人小唯の本当の姿を知ってしまい、追い詰められながらも人としての愛を貫こうとする佩蓉。
 人の心臓を喰らって生きながらえ、小悪魔的美貌の下におぞましい(不意打ち的グロ描写に吃驚)素顔を持ちながらも、誰かを恋するという点では人間と変わらぬ小唯。
 恋に破れて全てを捨て、飲んだくれの風来坊となりながらも、かつて恋した人のために命懸けで戦い、怒るパンヨン(演じているのはドニー・イェン。「孫文の義士団」に続きまたこういうキャラ…しかし最高に格好良いのですが)。

 派手なアクションはもちろんあります。CGやワイヤーを用いた特殊撮影もあります。それはそれでもちろん非常に魅力的なのですが、しかし本作の中心となるのは、あくまでも人間の、妖魔の、心の動きを捉えたドラマであり、随所に加えられたひねりでそのドラマを盛り上げる演出であります。

 個人的に特に感心させられたのはクライマックスのある展開であります。
 人間と妖魔の恋物語では定番とも言える、「愛は種族の壁を超えるか?」というテーマ。本作の展開的に、超えてしまったらそれはそれで困るわけで、本作ではこの点はスルーされるのか、と思いきや…
 詳細は伏せますが、なるほど、こういう形で描くという手があったか! と大いに唸らされた次第です。


 あえて難癖をつければ、小唯があまり狐の妖魔らしくない、という点はあるのですが(しかし、クライマックスでの彼女の特殊メイクは、驚くほど原始的でありながら、見事に人外の美しさを表していたのにもまた感心)、そこはまあ、本質ではありますまい。
 古の物語を、その骨格を用いて、今の物語として――まさに美しい皮を被せて――見事に生まれ変わらせた点こそが、本作の肝なのですから。


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