« 「十 忍法魔界転生」第1巻 剣豪たちを現代に甦らせる秘術としての作品 | トップページ | 「寝台特急あさかぜ鉄人事件」 二つの世界と我々の世界を重ねる愛 »

2013.02.18

「不思議絵師蓮十 江戸異聞 2」 真実を描く絵、自分自身を描く絵

 第1巻からほぼ一年ぶり、描いたものに命を与える浮世絵師・蓮十の、再びのお目見えであります。今回も、美貌の浮世絵師・蓮十と、地本問屋の娘・小夜、そして蓮十の宿敵(と書いて「とも」と読む)歌川国芳が、ちょっと不思議な事件の数々に巻き込まれていくこととなります。

 主人公・石蕗蓮十は、江戸で売り出し中の浮世絵師。役者にしたいような美貌に相応しく(?)どこか生々しい美人画で評判の蓮十ですが、彼の悩みは、自分が描いた絵の中の生き物に命が吹き込まれてしまうこと。
 動物を描けば動物が、人間を描けば人間が、その描写が真に迫るほど、絵から抜け出して動きだしてしまう…
 それを避けるために、普段は絵の中に意図的に「ほころび」を入れておくのですが、それが必ずしも功を奏するわけではなく、様々な騒動の種になってしまうのであります。

 そんな蓮十を中心に描かれる本作は、前作同様、三編の中編から成る作品集となっています。
 国芳と共同で鼠除けの猫絵を描くことになった蓮十が、ほころびとして猫の尻尾を二股に描いたことから、猫又が誕生してしまう第一話「鼠と猫」。
 蓮十のお人好しぶりが思わぬ福を招き、変わり変わって鯉が初松魚に化けるまでを描く変わりわらしべ長者の第二話「青葉若葉」。
 ろくろ首と噂を立てられた鐘撞きの娘の見合いのために蓮十が描いた似顔絵が、本当にろくろ首として絵から抜け出す謎を描く第三話「ろくろ首の娘」。

 どの作品も、明るくもちょっと切ない人間の心の綾を、蓮十の絵が描き出していくという趣向。
 単に対象の外見を写し取っただけではなく、対象の内面も含めて、真に相手の姿を捉えた時にはじめて、絵が実体化する――その設定がうまく作用して、思わぬ角度から物語の背後に隠れた真実が見えてくる、という構造が実に面白いのであります。

 それが最も効果的に描かれたのは、第三話でありましょう。
 ろくろ首と噂される娘の似顔絵で、あえてほころびとして入れた――ろくろ首の証と言われる――首のしわ。ところが、その絵が実体化して動き出して…ということは、彼女は本当にろくろ首なのか?
 全て投げ出してしまったようでいて、不思議に生の女性の臭いを感じさせる娘(この辺りのナマの女性描写はさすが)。実の娘の噂も商売の宣伝の手段としか考えないようなその父親。そして彼女たちを前にして、少しずつ描き出される蓮十の過去――

 蓮十に対しての父親の思わぬ提案が、蓮十の過去に触れる形で、彼自身のキャラを掘り下げるという展開も面白く、また、父親が元々は鐘撞きという題材選びも巧みで、本作のうちでは随一の内容と感じました。
(私の不勉強ゆえか、鐘撞きとろくろ首の関係は初耳でしたが…)


 そして本作は、蓮十と彼の絵を通して様々な人々の姿を描き出すだけではなく、蓮十自身の姿を描き出す物語でもあります。
 実は絵師になる前は葭町にいた蓮十。その過去は様々な形で彼の現在にも陰を落としますが、それがあからさまに描かれるのではなく、小出しにされていくのが、何とも心憎いのです。

 そんな過去を持ちながら(いや持っているからこそ?)、蓮十が自分の中の小夜に対する感情の正体に気付かないことから生まれるラブコメ展開も楽しいのですが、今回は彼の過去に密接な関係を持つ、ある実在の人物が登場。
 今回は顔見せ程度なのですが、物語にどのように絡んでいくのか、何とも興味をそそられるのです。


 真実を描き出す蓮十の筆が、いつか彼自身の姿を描き出すことになるのか――そんな期待も込めて、次は一年待たないで再会できれば良いな、と感じている次第です。

「不思議絵師蓮十 江戸異聞 2」(かたやま和華 メディアワークス文庫) Amazon
不思議絵師蓮十―江戸異聞譚〈2〉 (メディアワークス文庫)


関連記事
 「不思議絵師 蓮十 江戸異聞譚」 不思議絵が動かす情愛

|

« 「十 忍法魔界転生」第1巻 剣豪たちを現代に甦らせる秘術としての作品 | トップページ | 「寝台特急あさかぜ鉄人事件」 二つの世界と我々の世界を重ねる愛 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/56783171

この記事へのトラックバック一覧です: 「不思議絵師蓮十 江戸異聞 2」 真実を描く絵、自分自身を描く絵:

« 「十 忍法魔界転生」第1巻 剣豪たちを現代に甦らせる秘術としての作品 | トップページ | 「寝台特急あさかぜ鉄人事件」 二つの世界と我々の世界を重ねる愛 »