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2013.02.07

「蝶獣戯譚Ⅱ」第3巻 嘘だらけの世界の中の真を映すもの

 吉原の太夫とはぐれ忍び狩りの狩人の二つの顔を持つ女・於蝶の戦いを描く「蝶獣戯譚Ⅱ」の待ちに待った続巻であります。
 於蝶たちの宿敵であるはぐれ忍びの首魁・一眞とキリシタン宣教師・金鍔次兵衛による吉原侵攻に対し、捕らわれの身となった於蝶は…

 日本のキリシタンにとっては最大の怨敵ともいうべき転び伴天連・沢野忠庵ことクリストファ・フェレイラを追って江戸に現れた金鍔次兵衛。
 催眠術とも言える奇怪な瞳術を操る次兵衛は、於蝶のかつての恋人であり、今は最大の敵となった一眞と手を組み、大胆にも江戸でその勢力を増していくこととなります。

 これに挑んだ於蝶は、しかし吉原内のキリシタン女郎、そして何よりもはぐれ忍び狩りでは相棒とも言うべき男・磊蔵の裏切りに遭い、一転囚われの身に…

 と、いう展開で終わった前巻に続くこの巻は、吉原攻防編の後編とも言うべき内容です。
 於蝶を人質に、吉原の主・庄司甚右衛門と忠庵の二人を呼びだした一眞は、その隙に配下を使って吉原制圧を計画。囚われの於蝶に逆転の目はあるのか、磊蔵は本当に裏切ってしまったのか? いきなりクライマックスであります。

 前の巻では、とにかく於蝶が追い込まれていくばかりで、読んでいて胃が痛くなるような展開の連続でありましたが、この巻では彼女が一転攻勢。
 ようやくこれまでの溜飲を下げてくれるとともに、ついに前線に登場した甚右衛門や忠庵が、それぞれのキャラクターを生かして、それぞれの宿敵とも言うべき相手を追いつめていく展開は、大いに盛り上がります。
(そしてその中で描かれる一眞の出自は、いつか必ず使われるであろうと思っていた題材をここに投入してきたか、と思わずニンマリ)


 しかし、これまでに溜めてきたものが大爆発するようなアクションの連続の中でも、やはりこちらを惹きつけて離さないのは、於蝶をはじめとする登場人物たちの瞳、目であります。
 太夫としての――いわば人間としての於蝶の瞳と、狩人としての於蝶の瞳。同じ人物でありながら、中身だけが変わったような彼女の心の在り様を、その瞳は明確に映し出します。

 そしてそれは同時に、彼女の心の動き、変転をも描き出します。たとえ狩人として凶刃を振るっている時であったとしても、彼女の心に迷いがある時――その瞳は何よりも雄弁に、その想いを映し出すのですから。

 そしてそれは於蝶だけではありません。甚右衛門が、磊蔵が、忠庵が…狩人として背教者として、心の底を見せずに振る舞う彼らが、ほんの一瞬だけ見せる心のゆらぎを、本作は描き出しているのです。

 この巻において、甚右衛門は語ります。忍びは刃で心を殺す者、はぐれ忍びは半端に心を持ってしまった者だと――
 しかし、心を殺したはずの者の中にも、心のかけらが顔を覗かせることがあります。目は心の鏡、という言葉の通りに、その者の目の中に…

 それは、今回の物語のエピローグで描かれた忠庵の姿のように、あるいは絶望的なことなのかもしれません。
 しかし嘘が真を塗り潰す世界、そうしなければ生きていけない世界――それは、忍びの世界であり、吉原という世界でもあります――にあっても、その嘘の中に真が顔を覗かせることがあるというのは、ある種の希望なのではありますまいか。

 この吉原攻防編を通じて、そんな想いを抱いた次第であります。

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