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2013.02.03

「新・水滸伝」第4巻 好漢たちのレジスタンス…?

 現代中国でリライトされた水滸伝である「水滸新伝」の邦訳「新・水滸伝」、全5巻のうち、第4巻であります。この巻の中心となるのは、何と言っても約半分を占める対遼戦。前の巻で発端が描かれた遼との戦いの中、好漢たちがそれぞれの戦いを繰り広げることとなるのですが…

 まず初めに原典との違いを列挙しましょう。

・董平と呼延灼は義兄弟の若き将軍。それぞれ対遼戦で活躍するが、童貫に陥れられて窮地に陥り、やがて梁山泊に走る
・燕青・穆春・郁保四は北方で紅巾軍を結成、董平と協力して遼と戦う。その他、石秀・鮑旭・樊瑞がそれぞれレジスタンスに
・焦挺は侯健・時遷の兄弟弟子として大活躍。独自にレジスタンスしたほか、呼延灼とともに童貫の暗殺を狙う
・オリジナル女性好漢として軍人の娘の李飛瓊が登場。凌振とともに籠城戦を繰り広げ、救援に来た呼延灼と恋に落ちる
・宣賛は禁軍の良識派として奔走するが、やはり裏切りにあって窮地に陥ったところを蔡慶・蔡福の桃花山組に助けられる
・関勝はカク思文・単廷珪・魏定国と共に地元の軍を率いて遼と対決。後に宣賛と凌振を加えて梁山泊を攻め、連環馬作戦を展開(この辺りは原典の呼延灼の役回り)
・石秀は遼と戦った後、路銀を時遷に盗まれて楊雄と出会い、以下ほぼ原作と同じ
・祝家荘戦は原典と流れはほぼ同じだが、李応の姪として李飛瓊が参戦。扈三娘は董平と恋に落ちて結婚(!)
・登州組は徐州組に変更。孫立・孫新は鄒淵・鄒潤に変更

 物語的には、前半は先に述べたオリジナルの対遼戦、後半は原典のエピソードをベースにした内容となっています。

 双鎗将董平が、皇帝の御前試合で遼将との腕比べに勝利したことを引き金に起きた遼の侵攻。腐敗した正規軍が瞬く間に撃ち破られていく中、董平や呼延灼ら若き武将たち、そして燕青や鮑旭、樊瑞ら江湖の好漢たちが、独自に遼へのレジスタンスを展開していくこととなります。

 対遼戦は、原典でも百八星が集結し、招安を受けた後のエピソードとして存在しますが、本作で描かれるのは、そちらとは全く別の内容。
 原典の方は、フルメンバーの梁山泊軍がほとんど無双状態で遼に完勝するという史実とはかけ離れた展開ですが、本作の方は梁山泊に入る前の、各地に拠っている好漢たちが、それぞれの立場から抗戦するというシチュエーションはなかなか魅力的であります。

 ――が、結局展開される内容は、これまでの本作と同様。好漢たちはあくまでも正しく貧しい者の味方で、敵となる連中はいずれもゲスで人間のクズばかり。
 これまで好漢たちの敵は腐った金持ちと役人たちでしたが、今回はその代わりに…いやそこに加えて(登場する役人は国を売るような連中ばかりなので)腐った遼国人になったというだけ。こういう言い方はしたくありませんが、異民族である分、安心して殺せる相手が増えた、という印象であります。

 そしてこの前半と原典ベースの後半を繋ぐのが石秀。前半、遼へのレジスタンスとして活躍した石秀は、時遷に金を盗まれて(というのもすごい展開ですが)柴売りをしている時に楊雄と出会うという展開となります。

 しかし、スケールは大きい対遼戦の後に、個人レベルの不義密通話というのは、正直バランスが取れていない印象があります。
 しかし、後者の方がキャラクター造形、物語展開ともによくできているのが何とも皮肉に感じられます。

 そしてそれが、ある意味本作全体を象徴しているように感じられるのであります。
 少なくとも、魅力的なヒーローには魅力的…とは言わないまでも、書き割りではない悪役が必要、というのは間違いないと、何度目かの確認をした次第です。


「新・水滸伝」第4巻(今戸榮一編訳 光栄) Amazon


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