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2013.02.25

「新・水滸伝」第5巻 そして路線対立の果てに

 現代中国でリライトされた「新・水滸伝」もこれで完結の第5巻であります。オリジナル展開の多かったこれまでとは異なり、比較的原典に近い展開が描かれるのですが、その着地点は…

 これまで、登州での新税に対する叛乱、花石綱への反抗、遼へのレジスタンスと大規模なオリジナルストーリーが展開されてきた本作ですが、この第5巻では、柴進の受難、曾頭市との戦い、盧俊義の仲間入りを経て百八星が集結し、その後童貫戦・高キュウ戦を経て招安までと、表面的にはほぼ同じ展開に見えます。

 事実、百八星集結までの原典との主な相違点は
・王定六は安道全の弟子として登場
・盧俊義は燕青とともに北方に旅立ち、穆弘らと対面。梁山泊の思想に好意的。
・北京への帰還後、盧俊義は梁中書の飢民救護策に異を唱えて恨みを買い、李固の讒訴もあって捕らわれる。
・関勝の役回りとして孫立が登場(関勝は既に呼延灼の役回りで入山済)
と、さほど大きなものではありません。

 が、本作が原典と大きく異なる点は、この後にこそあります。
 百八星集結後、宋の招安を受けて帰順しようとする宋江。これに対し、一部から不満の声が出ていることは原典にも描かれましたが、本作においては童貫・高キュウ軍の攻撃が続く中、元・金持ちや官軍出身者と、元・庶民や山賊出身者の間で、路線対立はより先鋭化することになるのです。

以下、百八星集結以降の主な相違点は――
・公孫勝は百八星集結の二回後に離脱
・梁山泊は宋江・盧俊義ら招安派と呉用ら革命派に分裂。宋江の陰険さ・姑息さが強調される
・李逵・鮑旭・樊瑞は宋江に反発して三人だけで出撃、童貫軍に敗れ最初の死者に
・劉唐・阮小五・阮小二も童貫軍との戦いで死亡
・大敗した童貫をわざと逃がしたことで殺さなかったことで憤った穆弘は太行山に、項充ら外洋に離脱
・白勝、阮小七は高キュウ軍との戦いで死亡
・林冲は捕らえた高キュウをもてなす宋江に激怒して自刎
・林冲の死に激怒して二竜山組は離脱
・呉用は招安を止められなかったことを悔いて縊れ死ぬ
・花栄と清風山組も招安前に離脱
・戴宗は宋江に従っていた前非を悔いて自分で右足を切断。リタイア
・名誉を回復した呼延灼は毒殺、董平は妻の扈三娘を帝に召し上げられそうになり穆弘のもとへ

 …と、ある意味原典終盤以上に悲惨な展開のオンパレードであります。

 そしてその中でしつこいくらいに強調されるのは、宋江の陰険さ、小人物ぶりです。
 招安を受けて官位と栄耀栄華を得るために策を巡らせ、それに反対するものの切り離しを――時には戦場で見殺しにすることも含めて画策。招安のためには宿敵である高キュウや童貫にも媚びへつらう…

 なるほど、原典でも宋江は確かに偽善者的な人物であり、特に後半、宋江が招安を受けなければ…と歯がゆく感じたことは、原典読者にとってはほぼ共通の経験でしょう。
 しかし、だからと言って宋江を単なる陰険な策略家――何と九天玄女の天書や百八星の石碑も彼の捏造という設定!――として描いて面白いかと言えば、それは別の話。

 確かに、一種のif展開として梁山泊内の路線対決を描くというのはなかなか面白い試みであり、それ自体は悪くありません。
 しかし、単に招安派、というより宋江をどうしようもない悪人として――敵側を貶めまくって味方側を持ち上げるというのは、本作で一貫した態度ではあります――描いても、不快さと理不尽さが残るばかりです。

 宋江を偽善者と評し、後半を切り捨てたのは、七十回本の編者である金聖嘆も行ったことであります。
 そしてまた、文化大革命の頃、毛沢東が反革命的として宋江を批判したのもまた事実。 本作の態度は、その延長線上にあるもの、と想像はできるものの、上に述べた悪人描写の拙さなど、小説としての魅力の乏しさが、大きくマイナスに働いているとしか言いようがありません。


 多くのオリジナル展開には楽しませていただきましたが、やはり本作を通じての第一印象は、現代中国において水滸伝を描くということの難しさと、そして何よりも小説としての面白さの必要性であります。後者は当たり前すぎる話ではありますが――

「新・水滸伝」(今戸榮一編訳 光栄) Amazon


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