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2013.02.16

「説岳全伝」における「水滸伝」関連キャラクター

 北方謙三の大水滸伝第三部「岳飛伝」も好調のようですが、この岳飛を主人公とした中国の小説が「説岳全伝」です。この「説岳全伝」は「水滸伝」の直後の時代を舞台とした作品であり、水滸伝の登場人物・関係者も何名か登場します。今回の記事ではそうしたキャラクターについて述べたいと思います。

 ここで簡単に「説岳全伝」について説明いたしましょう。この「説岳全伝」は中国の清代に銭彩・金豊らによって書かれた小説。金の侵略と北宋の滅亡、南宋の誕生を背景に、抗金の英雄として活躍した岳飛とその配下たちの活躍を描く全八十回の長編であります。
 日本では岳飛の存在がほとんど知られていないこともあり、完訳は残念ながら刊行されておりません。が、田中芳樹が「岳飛伝」のタイトルで全八十回の編訳を行なったものが出版されています(以後、本稿で「岳飛伝」といえばこの田中版を指します)。一部アレンジされていますが、細かいところを気にしなければ、作品の全貌は十分に掴むことができます(が、細かいことを気にしだすと色々あるのは後述)。

 前置きが長くなりましたが、「説岳全伝」には、梁山泊の百八星の本人が登場する場合と、その子孫が登場する場合があります。
 まず本人はといえば――
・呼延灼…金と戦う老将軍開封を奪われて逃げる途中の高宗を守って金の兀朮四太子と激突するも戦死(第36回)
・燕青…海賊の首領。逃げる途中の高宗を捕らえ、一度は殺そうとするが見逃す(第37回)
・安道全…牛頭山の玉虚宮に滞在。逃げこんできた高宗を治療する(第37回)

 全て高宗絡みというのがちょっと面白いところであります。原典の記述通りに戦死してしまう呼延灼は残念ですが、面白いのはやさぐれてしまった燕青でしょう。「水滸後伝」とはある意味正反対のやさぐれぶりは、優等生イメージのある燕青にしては意外で、なかなかに興味をそそられます(ちなみに新書版「岳飛伝」では伊藤勢によるこの燕青のイラストが最高に格好良いのです)。

 ちなみに第35回には樊瑞と名乗る老人が登場するのですが、「説岳全伝」で梁山泊が登場する時には必ずついて回る「梁山泊の」「水滸塞の」という表現がないため、これは同姓同名の別人と考えていいように思います。
 また、名前のみの登場ですが、岳飛の師である周[イ同]は、林冲や盧俊義の師でもあったという記述があり、岳飛は彼らの弟弟子に当たることになります。

 さて、子孫の方はと言えば、以下のとおり。
・張國祥…菜園子張青の息子でもと緑林の好漢。岳飛の助っ人に駆けつける(第27回)
・董芳…董平の息子でもと緑林の好漢。張國祥とともに登場(第27回)
・阮良…阮小二の息子。逃げる兀朮を渡し船に乗せると見せかけて水中に叩き落として捕らえる(しかし失敗)という梁山泊水軍定番ムーブを見せる(第27回)
・関鈴…関勝の息子でやはり青龍偃月刀の遣い手。岳飛の子・岳雲の義兄弟となり赤兎馬をプレゼントする(第40回)
・韓起龍&韓起鳳…百勝将韓滔の孫。父も軍人で岳飛に恩を受けたらしく、岳飛の死後に最初にその息子・岳雷の仲間となる(第63回)。


 と、「説岳全伝」にはほとんどがちょい役ながら、それなりの水滸伝関係者が登場するのですが、実は「岳飛伝」の方には少々問題があります。
 先に一部アレンジ、と述べましたが、それにより、梁山泊関連の記述が省かれていたり、そもそもキャラクターが登場しなくなるケースがあるのです。

 具体的には、
・張國祥&董芳は登場するものの出自が語られない
・安道全は名前が登場せず、単に「医師」と表される
・韓起龍・韓起鳳兄弟は登場せず、その代わりに関鈴(とその義兄弟)が登場

 …何となく省かれる理由もわからなくもありませんが、寂しいという印象は正直あります。
 もっともその一方で、阮良は別キャラの出番を奪って出番が増えていたり、「説岳全伝」では全く別名だった仙術使いの名前が「公孫郎」だったり(この公孫郎自体は「説岳全伝」には登場するのですが、仙術は使わないので全く別キャラ)、水滸伝を無視しているわけではなさそうなのが、また面白いというか何というか。

 と、マニア以外は全く興味のないようなお話でしたが、自分のメモ代わりに、ここに記しておく次第であります。
(なお、当方の中国語知識は皆無に近いところ、Web辞書等と首っ引きで調べましたが、誤読があればご指摘いただければ幸いです)



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