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2013.02.05

「かおばな憑依帖」 個性満点、しかし説得力は…

 暴漢に襲われた田沼龍助(後の意次)を助けた美青年剣士、実は猛母に頭の上がらない桜井右京は、それが縁で龍助の姉・美也と出会い、恋に落ちる。しかし吉宗を恨む尾張藩の怨霊が、江戸の町に毒をばらまき、美也もその犠牲者に。実は隠密だった田沼家の命で、怨霊に命懸けの戦いを挑む右京だが…

 昨年の第24回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞は時代伝奇小説、ということで大いに気になっておりました「かおばな憑依帖」であります。

 物語の舞台となるのは八代将軍吉宗の時代。本作の主人公・桜井右京は、一刀流道場の跡継ぎにして役者のような色男…といういかにも時代劇ヒーロー的なキャラクター――ではあるのですが、若さを持て余しているのと厳しすぎる母への反発から放蕩に明け暮れ、それでまた母に怒られて頭が上がらない、というちょっとしまらない青年であります。

 そんな彼が、浅草寺で気触れの暴漢から救った少年は、吉宗の側近・田沼意行の嫡男・龍助(後の意次!)。龍助やその供の柾木信吾と親しくなった右京は、その縁で、盲目ながら美しい龍助の姉・美也と出会い、たちまちのうちに恋に落ちるのですが…

 もちろん、町道場の息子と田沼家の姫では身分が違いすぎる。しかし二人の仲を許すという意行は、その代わりに左京にある任務を命じます。
 吉宗の将軍就任に至るまでの暗闘で破れ、命を落とした尾張吉通。怨霊と化した彼は、吉宗を将軍位から引きずり下ろすべく、暗躍を続けていたのであります。
 実は忍びとして吉宗の下で汚れ仕事を引き受けていた意行は、捨て駒として右京を怨霊にぶつけようとしていたのでした。

 美也との結婚以上に、こんな大秘事を告げられては今更逃げるわけもいかず、引き受けることとなった右京。しかしその矢先、美也がいた小石川養生所が尾張のテロに遭い、彼女は明日をも知れぬ状態に。既に己の命を捨てる覚悟を決めた右京は、彼女の仇を討つべく、怨霊と対峙するのですが――


 と、ここまででまだ物語は半ば。ここから先は、意外な展開の連続。何しろ、尾張方の吉宗追い落としの切り札というのが、なんとバイオテロなのですから驚かされます。
 江戸時代にバイオテロ!? と訝しく思われる向きもあるかと思いますが、これが、なるほど、こういうやり方があったか、という手段。これで江戸を危機に陥れる展開には感心でありますし、怨霊というものが平気で登場する世界で、こうした「科学的」アイデアを用いるのも心憎いところではあります。

 そして、その陰謀に巻き込まれたキャラクターたちがまた個性的。右京をはじめ、その母の茅野に、美也と龍助姉弟、田沼家に献身的に仕える信吾に若き日の青木昆陽。そして将軍吉宗と、その母で吉宗を守るため自ら怨霊と化した浄円院、さらに喋る○○や××、果てはあの剣豪まで…

 クライマックスでは、右京をはじめとする主人公チームが怨霊に最後の決戦を挑むことになるのですが、いやはや、ここまで個性的なメンバーは本当に見たことがない、と驚かされてばかりでありました。


 が――残念ながら、それと作品自体の完成度、特に時代伝奇小説としての完成度は別、と言わざるを得ません。

 はっきり言えば、本作で描かれる「意外な真実」に、説得力がない。いや、説得しようとしていない。
 「尾張吉通が怨霊と化していた」「田沼家は吉宗に仕える隠密だった」…こうした本作ならではの意外な裏面史が、登場人物の口から語られるのみで説明され、それに対する理屈、裏付けといったものが描かれることがないのであります。

 時代伝奇の面白さというのは、単に意外な真実という「結果」を提示するに留まらず、史実から乖離したそれを説得力を与え、真実たらしめる理屈という「過程」にあるのではないか――私は常々そう考えています。
 そして過程をなくした時、結果は説得力と魅力を失い単なる設定の羅列に過ぎなくなってしまう、とも。

 本作の場合、史実に即した部分、考証的部分はなかなか丁寧に描かれており、その点は好感が持てるのですが…


 キャラクター、物語ともに魅力的(特にとんでもないオチには大笑いさせていただきました)であるだけに、何とも時代伝奇としての根本の欠如が口惜しい…それが正直な気持ちなのであります。


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