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2013.02.21

「一刀流無想剣 斬」 正義の剣士…の正体は

 戦国時代末期、下野国の藤篠光永は奸臣・龍田織部介に討たれ、娘の澪姫を残して一族は滅亡した。逃げる澪姫と小姓の小弥太が追いつめられた時、一瞬のうちに追っ手を蹴散らした黒い長羽織の男。一刀流の秘剣を操るその男、神子上典膳と逃避行を続ける二人だが、龍田の追っ手は執拗に迫る…

 「機龍警察」シリーズで注目を集めるエンターテイメント作家・月村了衛の初時代小説が、本作「一刀流無想剣 斬」です。

 剣豪ものファンにとっては常識ですが、一刀流は戦国時代の剣豪・伊藤一刀斎が創始した剣術流派であります。
 そしてその一刀斎に小野善鬼と神子上典膳、二人の弟子がいたこともまた、有名なエピソードでありましょう。一刀斎はその性倨傲な善鬼を嫌い典膳に一刀流正統の印可を与えたこと、そして典膳と善鬼が立ち会い、典膳が勝ったことも――
 その知名度にも関わらず一刀斎の晩年が不明なこともあり、しばしばこの辺りのエピソードは、時代小説の題材となっているところです。

 さて本作は、この一刀流にまつわる物語であります。
 メインとなるストーリーはいたってシンプル。一刀流の剣士が、奸臣・龍田織部之介の謀反により一族を失った亡国の姫君・澪姫とその供を守って逃避行を続ける姿が描かれることとなります。

 彼らの前に立ち塞がるのは、龍田の配下たちや落ち武者狩りの人々、そして豊臣家の隠し御留流・黒蓑鏡心流の双子剣士…
 物語は冒頭から終盤まで、ほとんどひたすらに剣戟を続けつつ展開していくことになりますが、その中心にあって物語を展開していく力となるのは、一刀流の剣士である主人公の存在であることは間違いありません。


 本来であれば澪姫たちとは縁もゆかりもない本作の主人公が、その命をかけてまで彼女たちを守るのは何故か――
 いや、彼女たちだけではありません。彼は、弱きを助け強きをくじく…そのためだけに、各地でその剣を振るっていることが、やがて語られていくこととなります。

 ただ弱き者を助けるためだけに、己の剣を振るう正義の剣士――そのような「まるで時代劇のヒーロー」のような存在がいるものか?
 しかし本作は、そんな剣士を主人公に据えて、物語を展開させてみせます。

 一歩間違えれば単なる荒唐無稽な活劇に終わるところをギリギリのバランスで踏みとどまり、そしてそれを逆に本作ならではの剣豪譚を描く力に転換してみせる…
 まさにこの点が、本作の最大の魅力でありましょう。


 …が、この点が作中で十全に効果を挙げていると言い難いのも、また事実。
 はっきりと言ってしまえば、終盤に語られるある真実が、あまりに予想しやすい――勘の鋭い人物であれば、物語のほとんど冒頭から気が付いてしまうレベルのものであることは、まことに残念としか言いようがありません。

 このために、終盤の展開の驚きと、そこから生まれるドラマの深みが損なわれているのは、これは大きな損失と言うべきでありましょう。

 この点や、そもそもこの時代にこの場所でこの物語が成立し得るのか、また作中に登場するある人々があまりに武装過多に思える点も含めると、総じて、粗削りな物語という印象になってしまうのは、何とも残念なところではあります。

 果たして時代小説が、作者の活躍の場所(の一つ)となり得るか…それは本作を読んだ限りでは、まだわからない、というのが正直な気持ちであります。

「一刀流無想剣 斬」(月村了衛 講談社) Amazon
一刀流無想剣 斬

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コメント

月村了衛さんというと私的にはテレビアニメ『NOIR』『天地無用』という作品の脚本家さんです。最近では『機龍警察』で日本SF大賞やら『このミス』ランキングに入るやらで人気の出てきた方ですが、時代劇は少し畑違いだったみたいですね。

投稿: ジャラル | 2013.03.02 21:31

ジャラル様:
さすがに他のジャンルを書いた後にいきなり時代小説は大変なのかな…とは感じました。先日のインタビュー記事を見るに、まだまだ時代小説にもチャレンジされるようですので、これからに期待したいなあ…とは思っております。

投稿: 三田主水 | 2013.03.23 20:36

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